VA(アメリカ合衆国退役軍人省)による新たなAI戦略

アメリカ合衆国退役軍人省(以下、VA: United States Department of Veterans Affairs)は2021年9月下旬に医療と給付の提供のための新しいAI戦略を実施し、省内全体でのAI技術の使用に関する倫理的ガイドラインを定めました。この戦略は、以下の4つの大きな目的を達成するために設計されました。

⑴ 退役軍人の成果と経験を向上させるために既存のAIを利用すること
⑵ VAのAI能力を高めること
⑶ AIに対する退役軍人と利害関係者の信頼を高めること
⑷ VAの機関や産業を超えた既存のパートナーシップを構築すること

さらに、VAは他の連邦機関と比較して以下の2つの理由からAIを活用する独自の資格があると述べています。

⑴ VAは世界的に見ても包括的な行政、財務、医療記録のデータベースを持っている
⑵ 各地域のVA施設のネットワークが分散しているため、システムユーザーや研究者が学術機関や他の民間企業と連携しやすい

VAはAIを活用した効果的で効率的なシステムを構築することで医療従事者が特定の病気をより早く発見できるようにし、患者の転帰を早める可能性を高めたり、産業を超えてAIの研究に携わることによりさらなる業界の発展に寄与しようとしたりしています。

このようにして、AIを活用することは従来の分析や臨床上の意思決定技術よりも効率的になることが認められていますが、一方で新しい技術に対する信頼性(個人情報の取り扱いなど)に関する退役軍人の懸念もあります。

これに対し、VAの国立人工知能研究所所長のGil Alterovitz博士は、「この懸念を払拭し目的を達成するために、VAの指導者、実務者、関連するエンドユーザーは、すべてのAI関連の活動が倫理的で合法的であり、基準を満たしているかを確認するためのトレーニングを受けます」と述べています。

VAは、イノベーション、安全性、信頼性のバランスを取ることの意義を理解しこの度のAI新戦略を実施するに至りました。

今回、アメリカの退役軍人省におけるAI戦略について記述しましたが、日本にはVAのような退役軍人省はありません。しかしながら今回の発表から学ぶことがあるのも事実です。

IMD「世界デジタル競争ランキング2020」の調査によると、世界の世界のデジタル競争力ランキングの中で日本が27位でデジタル後進国とされる一方、アメリカは堂々の1位を獲得しており、デジタル先進国となっています。

日本とアメリカでこのような差が開く中、日本はそれを是正するべく2021年9月にデジタル庁を発足しました。もちろん国全体でIT化を進めるのは良いことですが、よりIT化を進めるためには国民一人一人の意識を向上させることが必要だと、個人的に思います。今回アメリカ合衆国退役軍人省が省単体としてIT化、AI戦略を推し進めたように日本もそれぞれの各庁や民間がIT化、AI促進の意識を持つべきではないでしょうか。