株式会社Preferred Networks-現実世界を計算可能にする

株式会社Preferred Networks

 株式会社Preferred Networks(以下、PFN)は2014年に設立されたAIベンチャー企業で、機械学習や深層学習といった最先端AI技術の研究開発及び社会実装を行っています。特に製造業や医療、交通システム、そしてロボティクス領域において様々なイノベーションを起こしています。2022年1月時点における推定時価総額は3,549億円となっており、日本で10社しかないユニコーン(=起業から10年以内の未上場会社で、時価総額10億ドルを超える企業)の中でも最上位に位置しています

事業内容

機械学習や深層学習の研究開発及び実用化

  • 自動運転やコネクテッドカーに関する技術開発
  • 製造業における技術開発
  • 深層学習を用いたオミックス解析・医用画像解析・化合物解析
  • パーソナルロボットの開発

共同創業者兼代表取締役CEO 西川 徹 氏

 1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修了。大学院在学中の2006年にPreferred Infrastructureを設立し、2014年にはPreferred Networksを設立。功績としては、『第30回ACM国際大学対抗プログラミングコンテスト世界大会19位』や、『2013 年 情報処理学会ソフトウェアジャパンアワード受賞』など。

共同創業者兼代表取締役 COO 岡野原 大輔 氏

 1982年生まれ。東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。大学院在学中の2006年にPreferred Infrastructureを設立し、2014年にはPreferred Networksを設立。功績としては、『2005 年未踏ソフトウェア創造事業 スーパークリエータ認定』や、『2006/2007 年NLP 若手の会シンポジウム(YANS)最優秀発表賞』、『2007年東京大学総長賞』、『2009/2010年言語処理学会優秀発表賞』など。

創業の経緯とビジョン

創業の経緯

 2006年、ACM 国際大学対抗プログラミングコンテスト(ACM/ICPC)の世界大会に出場した西川氏と岡野原氏をはじめとする6人のメンバーによってPFNの前身であるPreferred Infrastructureが創業されました。その後、IoTの発展に伴い大規模かつ多種多様なデータ処理技術として注目されていた深層学習(ディープラーニング)への取り組みを加速させるため、2014年に株式会社Preferred Networksが創業されました。

ビジョン

 PFNは「現実世界を計算可能にする。自分たちの手で革新的かつ本質的な技術を開発し、未知なる領域にチャレンジしていく。」ということをビジョンとして掲げています。ソフトウェアとハードウェアを高度に融合することで、常に変化する環境や状況に柔軟に対処できるようなデバイスを開発し、物理世界をリアルタイムにセンシングし、現実世界を計算可能なものにしようとしています。

CEOの西川氏によると、PFNはAI専業の会社ではなく、機械学習をはじめとする様々な技術を実世界へ実装する力を持つ企業だといいます。また創業当初からの決まりとして、「提携企業の下請けをしない」ということを掲げており、大手企業相手でも下請け業務は行わず、対等な関係であることを条件として業務提携を行っています。

AI活用について

 PFNの事業内容は「深層学習の研究開発及び実用化」ですが具体的にどのような開発を行ってきたのでしょうか。現在対象としている領域は、交通システムや製造業、ライフサイエンスをはじめ、ロボティクスや姿勢推定、エンターテイメント、そして教育やエネルギーといったように多岐にわたっています。この記事ではメインである交通システムと製造業、ライフサイエンス、そしてロボティクスについて紹介します。

交通システム

 交通システムの分野では、自動運転やコネクテッドカー(通信機能を備えた自動車)に関する技術開発を行っています。特にトヨタ自動車と業務提携を組み、自動運転やコネクテッドカーに欠かせない物体認識技術や車両情報解析を共同開発しています。

下記の映像は 自動運転ミニカー「ぶつからない車」(CES2016トヨタブースに展示)です

引用元:https://www.youtube.com/watch?v=bXL754Tj_Rg&feature=emb_rel_end

製造業

 製造業の分野では、PFNが持つ機械学習・深層学習技術と製造業界が蓄積してきたノウハウを組み合わせることで製造業にイノベーションを起こそうとしています。特に2015年からファナックと共同研究開発を行い、物体認識及び制御、異常検知、最適化などの技術を産業用ロボット・工作機械に適用し、2017年には実際に製造現場への導入が進みました。また2019年からはENEOSと石油精製・石油化学プラントの最適化・自動化に関する共同研究を行い、2021年12月には国内初のAI技術による石油化学プラント自動運転に成功しました。

引用元:https://www.preferred.jp/ja/news/pr20211202/

ライフサイエンス

 ライフサイエンスの分野では、深層学習を用いて、創薬やオミックス解析、そして医用画像解析を行っています。創薬に関しては医薬品開発の初期工程を高速化するAI創薬技術を開発し、それを基に実際に京都薬科大学との共同研究によって新型コロナウイルス感染症の治療薬として有望なリード化合物を複数発見しています。

またゲノム情報を基に生体を構成している分子を調べるオミックス解析については、2018年にアメリカにて三井物産との合弁会社としてPreferred Medicine, Inc. を設立し、機械学習を活用した血中miRNAによる乳がんの早期診断技術の臨床研究を開始しました。そして医用画像解析については肺がんの診断データを多量に学習した深層学習モデルを開発し、肺がんの恐れがあるような異常を検知できるようなツールを開発しました。

引用元:https://youtu.be/F9EhLwihpsw

また、2022年2月には花王と共同開発した「仮想人体生成モデル」のプロトタイプを発表しました。「仮想人体生成モデル」とは、人の身体やライフスタイル、性格傾向、嗜好性など様々なデータを網羅的に推定する統計モデルです。部分的なデータを入力すると他の項目を推定して出力することができ、全ての属性が入力及び出力項目になりえるといいます。例えば健康診断結果を出力すると、性格傾向や嗜好性などが推定されて出力されるといったかたちです。そしてこの仮想人体生成モデルを様々な事業者にAPI経由で提供することにより、ライフケアにおけるイノベーションを起こすことを目指しています。

ロボティクス

 ロボティクスの分野では、パーソナルロボットの研究開発を行っています。実際に2018年に開催されたCEATEC JAPAN にて、トヨタ自動車のHSR(Human Support Robot)に深層学習技術を搭載した「全自動お片付けロボットシステム」を展示しました。このロボットは最先端の深層学習を活用することで物体認識やロボット制御、そして音声言語理解を可能とし、従来の掃除型ロボットでは実現することが難しかった“様々な形状のものを適切に掴む”ことや人の声による指示と指さしによる指示に対応できるようになりました。

引用元:https://youtu.be/VGj3daiFNdM

また、2021年3月には建築現場で使用するロボットが現場内を自律走行するためのシステム『iNoh』を鹿島建設と共同開発し、各種ロボットが自己位置や周辺環境を柔軟に認識できるようになります。さらに同年11月には自律移動ロボットの子会社Preferred Roboticsを設立しました。

知財情報について

 PFNは、2014年の創業以来184件の特許出願を行っており、そのうち45件が登録されています。また、上記の事業内容と連動し、コンピュータ技術分野における出願が123件と群を抜いています。

知財情報:https://search.tokkyo.ai/party/515130201

※特許は出願から公開まで1年半のラグがあることが通常のため直近の数値は参考値になります。

また、出願している特許のうち77%が電気工学分野の技術です。

なお、分野ごとの出願推移をグラフ化すると以下のようになります。
2017年あたりから「コンピュータ分野」、「機械操作」分野における出願の増加が見てとれます。

会社設立から10年弱という短い期間で100件を超える特許出願を行っているというのは一般的にみて非常に多い傾向にあります。このことから特許戦略に力を入れているという点を読み取ることができますが、着目すべき点はそこにとどまらず、同社の特許を引用している特許の多さにあります。

以下はPFNの特許を被引用とする特許について表示した図になります。
左側に列挙されているPFN特許の引用・被引用情報を可視化したものですが、多くの企業に引用されていることが見て取れます。

※青がPFNの特許。右上歯車マークのボタンから引用・被引用を切り替えることができます。
https://search.tokkyo.ai/ipr/relation/PTUT?kw=AP%253D%5B515130201%5D%252BRG%253D%5B515130201%5D&type=PTUT&page=1&listSize=30

他社から引用されている、いわゆる被引用数の多い特許は他社にとって事業を行う上でベンチマークすべき重要特許となるため、それ自体の価値が高い特許であるということができます。

複数の価値が高い特許をもっているという点からもPFNの知財戦略のレベルの高さが伺えます。

また、さまざまな分野の企業と共同出願も行っており、複数の分野から注目される汎用的な技術を持っていることが伺えます。

今後の展開

 ここまで述べてきたように、PFNは機械学習や深層学習などの最先端AI技術を実装することでいかに様々な領域においてイノベーションを起こしているかがお分かりいただけたかと思います。また知財情報で分析したように、出願特許が多くの特許に引用されていることからいかに業界における汎用性の高い技術を先行して開発しているかが分かります。

さらには2021年の11月に自律移動ロボットの子会社Preferred Roboticsを設立したことから今後ロボティクス分野へ注力していくことも予想することができます。現在、日本におけるユニコーン企業で最大の推定時価総額3,572億円を得ているPreferred Networksの今後の動向に引き続き注目していきましょう。