AIメディカルサービス-世界を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ

株式会社AIメディカルサービスとは

 株式会社AIメディカルサービス(以下、AIM)は2017年に設立されたAIスタートアップで、内視鏡の画像診断を支援するAIを開発しています。同社は累計30本以上の論文発表を行っており、特に2017年には世界初の「ピロリ菌人工知能診断論文」が世界3大医学誌の姉妹紙であるEBioMedicineに掲載されました。また現在、100以上の医療機関との連携を通して内視鏡画像の収集及び解析を行い、”AI×内視鏡”という世界初の分野に取り組んでいます。

事業内容

  • 内視鏡の画像診断支援AIの開発
  • 画像匿名化処理ソフトの開発
  • 画像仕分けWebシステムの開発

代表取締役 CEO 多田 智裕 氏

 1971年生まれ。東京大学医学部及び同大学院卒。東京大学医学部付属病院、虎の門病院などでの勤務を経て2006年にただともひろ胃腸科肛門科クリニックを開業。2017年に株式会社AIメディカルサービスを設立。

創業の経緯

 AIMの代表取締役である多田氏は、自身が25年間にわたって臨床医を経験してきた中で内視鏡診断における2つの課題を感じ、AIを活用してそれらの課題を解決しようと思ったのがAIM設立の背景だといいます。その2つの課題とは、『①ダブルチェックによる医師への負担』と、『②病変を見逃すリスク』です。

内視鏡検査においては、多くの内視鏡画像を収集する中で、精度を一定に保つために内視鏡専門医によるダブルチェックが義務付けられています。しかしながら年に数万件の内視鏡検診に伴い、内視鏡専門医がダブルチェックする枚数は一人当たり1時間で約2,800枚と膨大な数となっており、大きな負担を強いているのが実情です。さらには、もともと画像を見て病変を発見するのが難しい上、こうした負担を強いられている状況であることから疲労による精度悪化にもつながってきます。

このような内視鏡検診の課題を感じていた中、2016年に東京大学の松尾豊氏によるディープラーニングの講義を聞く機会があり、それをきっかけとしてAIを組み込んだ際の内視鏡検診の可能性を見出し、AIメディカルサービスを創業しました。

AIメディカルサービスの優位性

 冒頭でも述べたように、内視鏡分野でAIを導入したサービスは日本、ひいては世界においても初の試みとなっています。元々内視鏡発祥の地は日本であるからして、内視鏡の世界シェアは日本企業の3社で98%占めているほか、トップクラスの内視鏡医が揃っています。

引用元:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2204/26/news156.html

そのため、日本には質の良いデータが大量に揃っているのです。特に画像診断AIの開発には大量の教師データが必要になってきますが、上記で述べたように日本では質の良い大量のデータがあるのに加え、代表取締役である多田氏自身が臨床で携わっていた経験から医師ネットワークを活用してそれらを収集することができるのです。これこそが内視鏡AI診断を提供しているAIMの強みとなっています。
現在AIMは、日本のがん治療の総本山であるがん研有明病院をはじめ、東大病院の内視鏡診療のトップである藤城教授も共同研究者に名を連ねており、その他国内の100を超える医療機関と連携しています。その中で内視鏡AIの精度を高めるために教師データとなる1万8,000枚に及ぶ内視鏡画像のほか、18年以降は20万本に及ぶハイビジョン動画も収集し、病変の検出精度を高めています。

AI活用について

 ここまで述べてきたように、同社はAIの画像認識技術を活用することによって内視鏡診断の支援を行っていますが、現在行っている事業に先立って最初に開発したのがピロリ菌の感染有無を判断するAIです。ここでは医療機関やエンジニアと研究を進めAIを構築した後、論文を発表したところ世界3大医学誌の姉妹紙であるEBioMedicineに掲載されるなど、世界で評価されることとなりました。

引用元:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/00129/

こうしてAI内視鏡への期待が高まり、その後現在に至るまではエンジニアや薬事などの各分野のスペシャリストを集め内視鏡AIの製品化プロジェクトを進めています。2022年の秋に実用開始をみこんでおり、将来的な世界展開に先立って、アメリカとブラジル、フランス、タイ、シンガポールなどでの展開を検討しています。

近年、人間の画像認識能力を上回るようなAIが医療業界に実装されており、実際に専門医に替わってディープラーニングを用いたAIが放射線腫瘍学や皮膚癌分類、糖尿病性網膜症などの医学画像をスクリーニングできたという報告もあがっています。特に、顕微内視鏡レベルのスクリーニングにおいては、AIが専門医と同等の精度を出せることが証明されていたり、皮膚科においてディープラーニング機能を持ったAIが専門医と同等の画像診断能力を発揮したりするなどの報告があがっています。今後はAIMを筆頭に内視鏡診断AIが臨床の場に実装されていくことが予想されます。

知財情報について

AIMの知財情報

AIMは設立以来8件の特許を出願しています。

参考:AIMの知財情報 https://search.tokkyo.ai/party/517380422

出願している特許は全て医療技術に関するもので、会社設立の翌年である2018年より特許出願を開始しています。

最初に出願された特許は、「消化器官の内視鏡画像による疾患の診断支援方法、診断支援システム、診断支援プログラム及びこの診断支援プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」 という、短時間で実質的に内視鏡専門医に匹敵する精度で被験者の消化器官の疾患の陽性・陰性の確率、過去の疾患の確率、疾患の重症度のレベル、撮像された部位に対応する情報等を得ることができ、被験者を短時間で選別することができるようになる診断方法についての特許です。
この特許は2018年5月に出願されており、国内出願後は2018年12月に国際出願されています。

実際の特許はこちら:https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2019523412

この特許以外についても、画像診断、診断支援についての特許となっています。
なお、全8件の出願のうち以下2件は、公共財団法人がん研究会と共同出願をしています。

①「画像診断支援装置、学習済みモデル、画像診断支援方法および画像診断支援プログラム」:https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2020018003

②「画像診断支援装置、画像診断支援装置の作動方法および画像診断支援プログラム」:https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2019520910

業界を俯瞰してみると

 以下のパテントマップは、「消化器官」「内視鏡」に関する特許のボリュームを表したもので、X軸に年を、Y軸に企業をとっています。
消化器官に関する内視鏡分野ではオリンパスの出願数が圧倒的に多いことが伺えます。
AIMは業界においては新規参入であるため特許の数でみると比較的少ないですが、件数のみをもって何らかの判断することはできません。
特許を取ることで技術が世界中に公開されてしまうことから、特許を取得するか否かといった判断は会社の方針(オープンクローズ戦略といいます)による部分も大きいのが実情です。このことから、出願件数という情報から一概に技術の強弱を判断することはできない点に注意が必要です。
しっかりと特許分析を行うためには特許の件数だけでなく、技術の内容や権利範囲についても精査する必要があります。

とはいえ、業界の主要プレイヤーを把握する際の参考にはなるため、気になる業界においてどの企業が何件ほど特許を出願しているかという点は調べてみるといいかもしれません。

こうした特許に関する俯瞰的な情報は企業の方針などを調査・分析するうえで役に立つ情報となります。

※パテントマップは以下の無料特許検索サービスで作成することができます。
https://search.tokkyo.ai/ipr?kw=AI%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%83%AB&type=PTUT

今後の展開

 AIMは『世界の患者を救う~内視鏡AIでがん見逃しゼロへ~』というミッションを掲げ、AIを実装したシステムの開発によって内視鏡画像診断の支援を行っていますが、実際に日本だけでなく世界にも事業展開を進めています。2019年11月に内視鏡AIが米国食品薬品局(FDA)よりブレイクスルーデバイスの指定を受け、2021年4月にはアジアトップクラスの大学であるシンガポール国立大学病院と共同研究契約を締結しました。そして2022年1月には、アメリカのシリコンバレーに海外初の拠点となるアメリカ法人「AI Medical Service America Inc.」を設立しました。このように日本だけでなくアメリカをはじめとする海外への事業展開も着実に進め、世界の患者を救おうと奮闘しています。

さらに2022年4月29日には、ソフトバンクビジョンファンド2をリード投資家とし、総額80億円の資金調達を行いました。同ファンドから出資を受ける国内企業はこれで3例目となるなど、国内外において評価を高め推進していることが見て取れます。AIメディカルサービスが今後、AI内視鏡診断支援の事業を通じて世界中の患者を救う存在となりえるのか、今度の動向に注目しましょう。