アイリス株式会社
アイリス株式会社(以下、アイリス)は2017年に設立された医療系AIベンチャー企業で、AI技術の活用によって、熟練した医師が持つ「匠の技」をどの医師でも再現できるよう支援するような医療機器を製造しています。現在は喉の診断技術をAIによって再現性を持たせた医療機器を開発しています。
事業内容
- 感染症の診断を支援するAI医療機器の開発
- 咽頭画像の撮影に特化したカメラの開発
- 咽頭画像から感染症を特定する画像診断技術
- 感染症のデータベースを構築し、さらなる社会問題を解決する
代表取締役兼医師 沖山 翔氏
1985年生まれ。東京大学医学部卒業後、日本赤十字医療センター(救命救急)での勤務を経てドクターヘリ添乗医、災害派遣医療チームDMATの隊員として救急医療に従事。2015年には医療系ベンチャーの株式会社メドレーの執行役員として勤務し、AI技術を用いた「症状チェッカー」の開発に携わる。そして2017年にアイリス株式会社を創業。
創業の経緯と企業理念
アイリスは『現場で感じた医療課題を解決したい』という沖山氏の想いから創業されました。沖山氏は自身が救急医として幅広い患者に向き合う中で、専門医でなかったことから救えなかった患者がいたといいます。救急医のように病気を幅広く網羅し、いかなる状況においても対処できるからといって、専門医のように深く病気について関わっているわけではないため必ずしも患者を救えるとも限らないのです。しかしだからといって専門医が常駐している環境は大学病院レベルでしか存在していないというのも現状としてあります。そうした「専門家として深い診療ができること」と「病気を幅広く網羅すること」という両立しない医療のジレンマを解消するべく立ち上げたのがアイリスなのです。
また、医学的知識は論文のオンライン化によって全世界で共有されることとなりましたが、医学的技術は医師一人ひとりが築き上げたものに依存しているのが現状です。そうした再現性のない暗黙知的な医学的技術をAIの活用によって再現性のあるものにしようとしているのがアイリスなのです。
アイリス株式会社は医学の祖、ヒポクラテスが言った格言 “Art is long, life is short” (医術の道は長く、人生はかくも短い)という格言の頭文字をとって名付けられました。
AI活用について
ここまで述べたように、アイリスは暗黙知的な医療技術をAI技術の活用によって汎用化しようとしています。ここでは同社が既に開発を終えている、AIを実装した医療機器について紹介します。
感染症診断用AI医療機器の開発
アイリスは咽頭画像の解析を基にインフルエンザの判定を行うAIアルゴリズムを開発しました。この医療機器は、専用カメラで撮影した患者の咽頭画像及び体温等の基礎データをAIが解析し、インフルエンザかどうかを診断するものです。この医療機器は患者と医療従事者の双方にとってメリットがあり、患者にとっては従来の綿棒で粘液を採取するようなことをせずともインフルエンザを診断してもらえるようになり、一方で医療従事者にとっては患者由来の唾液飛沫を浴びる機会を減らしながら効率的に診断することができるようになります。
また、画像データや基礎データを解析するプログラムにAIを実装していますが、その解析に最適化した咽頭画像を撮影できるような専用カメラを自社開発しているのも優れている点です。
2021年6月には咽頭カメラを含むAI搭載システムを「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に基づき、厚生労働大臣宛て医療機器製造販売承認申請しており、承認後の全国展開を目指しています。
知財情報について
以下は2022年5月における知財情報に基づき記載されています。
アイリス株式会社は、2件の特許出願と、8件の意匠登録、6件の商標登録を行っています。
商標について
商標はアプリケーションや医療情報の提供といったサービス区分において「のどログ」「のどミル」といったサービス名に関する商標を出願しています。これらの名称でサービスを提供する可能性がみられます(2022年5月7日現在は提供されていません)。
特許について
特許については、「口内を撮影するための口内撮影装置、その口内撮影装置と口内撮影補助具とを含む医療装置、及び撮影された口内画像に基づいて所定の疾患を判定するためのプログラム」に関する特許が出願されています。
出願番号:2019561542
「口内撮影装置、医療装置及びプログラム」
参考ページ:https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2019561542
<概要>
上記発明は、
「撮影された画像を元に、機械学習により生成された判定アルゴリズムを用いて特定の疾患の可能性を評価し、結果を出力する口内撮影装置に関する発明」です。
特許出願されているのは本発明のみであることから、自己実施の可能性が高く、アイリス株式会社の主要技術である可能性が読み取れます。
また、本特許は、日本(JP)、欧州(EP)、アメリカ(US)、韓国(KR)、中国(CN)、シンガポール(SG)において国際出願を行っており、グローバル展開を見据えた特許戦略が伺えます。
国・地域コード | 出願番号 | 出願日 | 公開番号 | 登録番号 |
JP | JP.2019561542.A | 2018-12-18 | JP.WO2019131327.A1 | – |
EP | EP.18896683.A | 2018-12-18 | EP.3714764.A1 EP.3714764.A4 | – |
US | US.201816958085.A | 2018-12-18 | US.2021059534.A1 | – |
KR | KR.20207018105.A | 2018-12-18 | KR.20200103676.A | – |
CN | CN.201880083646.A | 2018-12-18 | CN.111526778.A | – |
WO | JP.2018046559.W | 2018-12-18 | WO.2019131327.A1 | – |
SG | SG.11202006040Y.A | 2018-12-18 | SG.11202006040Y.A | – |
今後の展開
2020年8月にはスパークス・グループ、CYBERDYNEから資金調達を行い、過去3年間で累計調達額が約30億円を突破するなど成長を遂げています。既に開発を終えている「インフルエンザAI」に続き、高血圧や動脈硬化を診断するAIや溶連菌の診断プログラムも開発しているといいます。AI技術を活用により、専門医師が積み上げてきた技術を汎用化し、医療技術を共有しあえるような新しい医療世界の創造を目指すアイリス株式会社の今後に注目しましょう。