株式会社ABEJA-Googleが出資したAIベンチャー

株式会社ABEJA

 株式会社ABEJA(以下、ABEJA)は2012年に設立されたAIスタートアップで、ディープラーニングを中心としたAI開発プラットフォーム『ABEJA Platform』や、それを基盤として小売・流通業界、製造業界、インフラ業界向けに開発したSaaS『ABEJA Insight』を提供しています。

2017年3月にシンガポールに現地法人「ABEJA Singapore Pte. Ltd.」を設立し、同年4月にはアジア企業として初となるNVIDIAとの資本業務提携を結びました。そして2018年12月には日本企業として初となるGoogleからの出資を受けました。また2019年10月にはシリコンバレーに現地法人「ABEJA Technologies, Inc.」を設立しました。

事業内容

様々な業界に対するAIの導入及び活用の支援

  • AI開発基盤PaaS「ABEJA Platform」の開発
  • 小売業界向け店舗解析SaaS「ABEJA Insight」の開発

代表取締役CEO 兼 創業者 岡田 陽介 氏

 1988年生まれ。10歳からプログラミングをスタート。高校ではCGを先行し、在学中に全国高等学校デザイン選手権で文部科学省を受賞。大学在学中には3次元CG関連の研究を複数の国際会議で発表。2011年大学を中退し会社響を設立し、取締役CTOに就任。その後ITベンチャーでの経験を経て2017年にABEJAを創業。現在、日本ディープラーニング協会理事を務める。

創業の経緯とミッション

創業の経緯

 ABEJAは、代表取締役である岡田氏がそれまで蓄積してきたテクノロジーとビジネスの知見を活かし、ディープラーニングを社会実装するべく創業されました。
追って説明すると、まず2009年、岡田氏は友人と画像共有サービスの会社を立ち上げました。しかしながらそこではユーザーが増えるにつれて画像保管に要するサーバ費用がかさみ、キャッシュの底が尽きたことから会社を畳むことになりました。そこでは、「いくら優れたテクノロジーを実装しようとも、基本的な経営視点が抜けていれば成功することができない」ということを実感したといいます。

そこから新しい働き手を探していましたが、その当時エンジニアに対してはエンジニアを枠組みでしか採用の動きがなく、エンジニアがビジネスを学ぶ機会がなかったといいます。そうした問題に直面していたところ、縁あって東京のIT企業の社長に会う機会があり、エンジニアではなくビジネスを学ぶ立場として働くことができました。実際に、そこではデザインやマーケティング、営業などビジネスのいろはを一から学ぶことができたといいます。

そこでの業績が認められたこともあり、シリコンバレーに行く機会を得、ちょうど2012年当時にAIのブレイクスルーとなるディープラーニングに触れ合い起業のきっかけを得ました。当時日本ではディープラーニングの認知が全くといっていいほど進んでいなかったこともあり、日本でディープラーニング技術を核とした会社を設立するべく、会社の元同僚とABEJAを創業しました。

ミッション

 ABEJAは『ゆたかな世界を、実現する』というタグラインを、『イノベーションで世界を変える』というビジョンを、そして『テクノロジーの力で産業構造を変革する』というミッションをそれぞれ掲げています。これらから見て取れるように、一貫してテクノロジーの社会実装を通してイノベーションを起こし、社会貢献をしようとしていることが分かります。

引用元:https://abejainc.com/ja/vision/

さらにABEJAはテクノロジーに対する正しい知識に加え、それを社会実装するためのビジネスセンス、そしてそれらを使って世界をあるべき方向に導く倫理観を持つ人材が不可欠であると考えています。こうした次世代の第4次産業革命を実現するような「テクノロジー」の知識と「アントプレナー」のビジネスセンス、そして「リベラルアーツ」の3つの要素を持ち合わせた人材を「Technopreneur」と称し、そういった人材を育成することを目指しています。

AI活用について

 多くのAI開発企業は受託を受けて企業に合ったAIを開発していますが、ABEJAはそうではなく『ABEJA Platform』という”AIエンジンを作る仕組み”を提供しています。このプラットフォームを中核にして、小売や製造、物流、コンタクトセンターなどのあらゆる業界向けにAIを実装しています。この記事では具体的に実装している3つのサービスをご紹介します。

ABEJA PLATFORM

 『ABEJA Platform』はAIの開発から実際の運用までを支援するためのPaaS(Platform as a Service)です。プログラミング不要でAIを開発してから運用することまでを支援しており、データづくりに最適なアノテーション機能やそれに付随する10万人以上のサポート体制を築いています。AIを一から構築することはもちろんのこと、それぞれの企業がそれまで抱えていた既存のシステムとの接続も可能としています。

引用元:https://youtu.be/U8d76Qkx4TM

ABEJA PlatformはAIの開発・運用に必要なプロセスを最小化し、AIのビジネス実装を加速させることに重点を置いています。そのためユーザーは大量のデータの取得や蓄積をはじめ、推論や再学習などの工程に必要なインフラ構築をする必要がなく、必要な工程のみを利用しAIを開発することができるのです。

ABEJA Platform Annotation

 ABEJA Platform AnnotationはABEJA Platformの中で教師データを作成することに特化したプラットフォームです。テキストデータや画像データなどの非構造化データを構造化データに変換することを可能とし、アノテーション作業から品質チェック、管理進行までの全ての業務をこのプラットフォーム上で完結させることができます。また、委託サービスを利用すれば約10万件のデータを1週間で入手することができます。実際にこのプラットフォームを通じてできることとしては以下のことが挙げられます。

引用元:https://abejainc.com/platform/ja/dataset/

ABEJA INSIGHT

 ABEJA INSIGHTは、業界別SaaSとしてAIを活用した店舗解析サービスです。開発当初は小売・流通業向けに開発され、その後製造やインフラ業界にもサービス展開をすすめています。

ABEJA Insight for Retail

 特にABEJA INSIGHT for Retailは小売業界向けに提供されているサービスで、大きく分けて3つのポイントがあります。

引用元:https://abejainc.com/insight-retail/service

まず、入店から購買までの顧客の行動を可視化するプロセスについてです。ディープラーニング技術を活用することで、店舗内外に設置したカメラや赤外線センサー等のIoTデバイスから取得したデータを解析し、来店人数や来客属性から顧客の動線分析、買上率、そしてリピート推定までを行うなど顧客行動を網羅的に分析し可視化することを可能とします。

次に、改善施策の実施や効果検証のサポートについてです。ABEJA Insight for Retail の施策登録機能を利用し、店舗施策のデータベースを構築します。店舗ごとの実施施策を登録することで、施策の効果検証をより簡単に実現することができます。

最後に、カスタマーサクセスによるデータ活用の支援についてです。カメラやセンサーなどのIoTデバイスの設置やデータ提供だけでなく、実際に活用するまでを支援しています。サービスの利用方法などの初歩的な支援から、収集したデータをどのように活用していくかなど具体的な方法についての支援まで行います。

知財情報について

 ABEJAは、8件の特許出願(うち登録1件)と、9件の商標を取得しています。

https://search.tokkyo.ai/ipr?kw=ABEJA&type=PTUT

出願している特許の多くはコンピュータ技術の特許で、出願数は増加傾向にあります(通常、特許は出願から公開まで1年半のラグがあるため直近2年の出願数は参考値となります)。

現在登録査定の出ている唯一の特許は以下で、国際出願もされています。

「情報処理システム」
特許番号:6689507

https://search.tokkyo.ai/pat/PT_2019542650

機械学習 (具体的に複数のデータを用いて反復的に学習し、そこに潜むパターンをコンピュータが見つけ出すこと) に関する従来の技術は、データの収集状況に応じてモデルを更新したり、様々な実行環境で動かす運用体制が必要でした。この特許はそうした機械学習のモデル管理の煩雑さを容易にするものであり、これから様々な分野でAI活用が増えていく現代において重要な特許といえます。

機械学習分野の特許出願傾向

 国際的に統一されている特許文献の技術内容による分類であるIPC分類によって機械学習の技術分野に付与されている「G06N20/00」で日本国内の特許を検索してみると、近年、機械学習に関する出願が急増していることが伺えます。

そして、この「G06N20/00」という分類におけるメインプレイヤーをチェックするためX軸を特許出願数上位企業、Y軸を年度とし、パテントマップを作成したところ、富士通の出願数が伸びていることが伺えます。

IPC「G06N20/00」において特許出願している企業名と出願件数上位7社
企業名(出願件数)

富士通株式会社 (248)
日本電信電話株式会社 (171)
日本電気株式会社 (165)
株式会社日立製作所 (146)
キヤノン株式会社 (108)
株式会社東芝 (83)
トヨタ自動車株式会社 (78)

こうした特許に関する俯瞰的な情報は企業の方針などを調査・分析するうえで役に立つ情報となります。

※パテントマップは以下の無料特許検索サービスで作成することができます。
https://legal.tokkyo.ai/ipr?kw=AP%253D%5BABEJA%5D&type=PTUT&country=jp&page=1&listSize=30

成功の秘訣

 ABEJAの創業当時、日本国内でディープラーニングの認知が進んでいなかったこともあり、どの企業からも導入してもらえず苦労していたといいます。そうした状況に置かれていた中で、業界別にサービスを展開する方向に舵を切ったのが現在までの成功に繋がっています。具体的に目を向けたのは小売・流通業界です。

当時は、ECサイトで分析されていたCVR(コンバージョンレート)などの各指標が実店舗に導入されておらず、数字を軸とした経営ができていなかったといいます。そこでディープラーニングの得意分野である画像解析に着目し、店舗にそれらを搭載したカメラやセンサーなどのIoTデバイスを設置することで科学的な解析が可能となることを見出しました。

実際にディープラーニングを実装したパッケージを基にアプローチを続けた結果、三越伊勢丹ホールディングスでの実証実験が決まったといいます。そうして小売・流通業界向けのSaaS『ABEJA Insight』の導入が拡大していき、その後は製造業やインフラなど、業界を跨いでサービスが展開していきました。

今後の展開

 ABEJAの代表取締役である岡田氏が言及しているように、今後よりテクノロジーが発展し、第4次産業革命が起こるのに備えてテクノロジーの知識や技術だけでなく、それを社会実装するためのビジネススキル、そしてそれらの力を正しく社会に還元するための倫理観を備えた『Technopreneur』人材こそが重要な鍵になってくるのではないでしょうか。他のAI受託開発企業とは異なり、AIを開発するためのプラットフォームを構築し、小売・流通業界や製造業界、インフラ業界などあらゆる業界へAIを実装しているABEJA の今後に目が離せません。