【最新版】2022年のAIトレンド予測10選

ディープラーニングから数年が経ちましたが、依然として多くの投資が行われています。国内の市場規模は2025年には約2兆円に達するとの試算もあります。これだけ多くの資金流入が起きるのは、やはりAIの世界に毎年新たな技術・ソリューションが登場するからでしょう。そこで今回は、2022年のAIトレンド予測を10個ご紹介します。

*AIについて詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

1. 量子機械学習

量子機械学習QML:Quantum Machine Learning)とは、量子コンピュータと機械学習を組み合わせた技術のことを指します。そもそも、量子コンピュータとは量子の特性を生かして演算を行うコンピュータであり、古典的なコンピュータ(今この画面を見ているコンピュータ)では不可能な難しい演算も可能とします。

では、一体どのような仕組みなのでしょうか。QMLは古典的な機械学習同様、データとアルゴリズムからなります。データとアルゴリズムの両方が量子的である必要は必ずしもなく

  1. 量子的データと古典的アルゴリズムを組み合わせたもの
  2. 古典的データと量子的アルゴリズムを組み合わせたもの
  3. データとアルゴリズムの両方が量子的であるもの

の3通りが想定されます。

当然ながらこの中で③のQMLが最も高いパフォーマンス能力を発揮しますが、状況に応じてこれらを使い分けることが重要とされています。

しかし、QMLはまだ発展途上の技術であり、多くの課題を抱えています。代表的な問題がハードの問題です。高速な演算を可能とするには古典的なコンピュータ同様、高性能なハードが必要となり、それに当たるのが量子データを保持し、量子プロセッサと通信する量子メモリです。これはまだ実現しておらず、実現の見込みも立っていません。

実現すれば、古典的メモリにデータを保存し、これを量子プロセッサと通信させる必要がなくなるため、指数関数的な高速化が期待できます。

2. ノーコード/ローコードAI

様々なビジネスに活用されるようになったAIですが、開発費用・難易度の高さにより導入を断念する企業も少なくはありません。その一因がAI人材の確保にあります。AI開発には非常に高い専門性が必要とされるため、そもそもの人材の数が少ない上に、近年のAIブームによりこうした人材への需要が激増し、確保が困難なものになっています。米国では、AI人材の新卒での平均年収が30万ドルとの調査結果もあります。仮に開発を委託しても高いコストが発生するという状況は変わりません。

そこで、この解決策として注目を集めているのがノーコード/ローコードAIです。サービスにより異なるのですが、一般的には、コードを書く必要がない若しくは少しの記述で足り、ドラック&ペーストによりAIアプリケーションを開発することができます。ノーコード/ローコードAIにより誰でもAI開発を行えることを「AIの民主化」と呼ぶこともあります。

また、AIの分野に止まらず、他のコーディングをノーコード/ローコードしようとする動きが活発化しています。Google社はノーコードアプリ開発プラットフォームであるAppSheetを2020年1月に買収して、今後この分野に注力していくという宣言をしたり、Amazonはマネジメントコンソールを使用したシンプルで直感的なWebページの作成を可能にするアマゾンウェブサービス(AWS)を開発するなど盛り上がりを見せています。

*ノーコードAIについて詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

3. 説明可能なAI

説明可能なAI(Explainable AI:XAI)とは、文字通り、モデルのアウトプットを人間が理解し、信頼できるようにするための技術のことを指します。ディープラーニングにより生成したモデルは中身がブラックボックス(入力から出力までのプロセスがわからないこと)になりやすいという性質があり、そのモデルの出力を信頼しづらいという課題があり、それを解決するために生み出された技術であると言えます。

AIモデルがブラックボックスであると、AIを意思決定の補助役として使う人からすると、本当に信じていいのか自信を持てなくなる可能性があります。また、開発者もAIが正常に機能しているのか判断することが難しくなります。今後、AIが人間の意思決定により介入していく過程で説明可能なAIは必ず必要となる技術なのです。

仕組みとしては、どの学習データが予測・認識に重要だったかを説明として提示する方法やデータ内のどの特徴が予測・認識に重要だったかを説明として提示する方法、予測・認識のプロセスを可読な表現で記述することでAIの説明とする方法が使われています。

*説明可能なAIについて詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

4. スモールデータ分析

膨大な量の顧客情報や取引データは「ビッグデータ」として機械学習をはじめ様々な利活用がなされています。その際にビッグデータは様々な手法を使って単純化され、理解可能な小さな次元に落とし込まれていきます。であれば、最初から加工の必要がない、単純化されたデータを活用した方が良いとなりますよね。それが、「スモールデータ」なのです。スモールデータは「アクセスが容易で取り扱いしやすい形式の、有意義な洞察が可能なデータ」ということができます。

では、ここからはスモールデータのメリットを見ていきたいと思います。スモールデータでは、ビッグデータのように膨大な量の正確なデータは必要なく、データの規則性や傾向を見出せるだけの最低限のサンプルがあれば十分なのです。少量のデータしか使用しないので、分析時間や維持コスト、そのデータを分析するためのプラットフォームのコストを低く抑えることができます。

他にも、スモールデータは単純化されたデータであるため、データサイエンティストのような専門性を有しない人でも容易に扱うことが可能という魅力があります。

さらに、スモールデータ分析では、データ量が少ないがゆえに付随する情報を掛け合わせることができます。例えば、店舗での売り上げデータの場合、一般的にはPOSデータに含まれる「購入日時、年齢、性別、同時購入商品」というようなデータを使用することになります。しかしスモールデータ分析の場合は、特定の商品購入者の購入時の様子などのデジタルデータには残っていない情報も加味して分析することができます。

ここまで、スモールデータの魅力について見てきましたが、決してスモールデータはビッグデータの上位互換というわけではなく、互いに補完し合う関係にあるのです。例えば、店舗での売上向上策を考える際に、まずは来店客数を増やすための施策をスモールデータを用いた「行動観察」の視点から考えます。その施策を実行した場合に、どの程度売上向上に結び付くかをビックデータを用いた「データ分析」で検証するといった両方のデータを補完させ合いながら活用する方法があります。

5. インテリジェントプロセスオートメーション

インテリジェントプロセスオートメーション(以下、IPA)とはAIを用いてRPA(業務自動化)を強化し、より高度な自動化を実現することです。すでにRPAは、人材難や働き方改革の影響もあって多くの企業で導入されています。しかし、自動化を行っても人間の手を完全に排除して行うことができていないのが現状です。

そこで、AIを導入することによって完全なる業務の自動化を目指そうとするのがIPAの目的なのです。AIを導入することにより単純作業だけを自動化するのではなく、高度な意思決定なども行わせることも可能となります。

仕組みとしては、会議や営業電話の音声、工場での工員の動きなど従来のRPAでは扱えなかった非構造化データをAI自身に能動的に学習させ、ソリューションの提案を行わせます。IPAの導入により、セキュリティやコンプライアンスの強化や、ミスの減少、人件費の大幅な削減、人間はより生産性の高い業務に従事できるなどのメリットを期待できます。

6. ジェネレーティブデザイン

ジェネレーティブデザインとは、使用したい材料やその重量、製造プロセスなどの情報をコンピュータに与えると、自動で最適な製品設計やモデルを生成する技術のことです。従来、ある製品の試作品を作るとなると、どのようなデザインにするか、どこにどんな材料を使うか、どのような構造にするのかといった様々な要素を考慮した上で、設計図を作成しなければならず、莫大な時間を要していました。

しかし、ジェネレーティブデザインを使えば、AIが自動で大量の試作品を提案してくれるので、短い工期でも納得のいく製品を作ることができます。また、素人でも設計が容易になったり、AIは人間の感性とは異なるため、独創的な全く新しい製品を提案するかもしれません

このシステムは既に多くの企業で採用されています。例えば、米航空機メーカーのエアバス社はジェネレーティブデザインを用いることにより、従来のものよりも遥に軽いパーテーションの制作に成功しました。

7. サイバーセキュリティの強化

近年、サイバー攻撃はより複雑で高度なものとなっています。そこで、新たな防衛の担い手としてAIが注目されています。旧来のサイバーセキュリティは特定のウイルスプログラムや不正操作に対して場当たり的な対応をする、いわばイタチごっこによりサイバー攻撃を防いでいました。そこでAIを用いることにより、AIが攻撃を学習し、新たな防御策を考案し、実行してくれるようになります。

また、重要な情報を、情報通信技術を使用せずに盗み出すソーシャルエンジニアリングにも対応することが可能となります。

しかし、AIは優秀な防衛手段となる一方で、攻撃の手段として使われることもあります。さらに、AIは攻撃・防御の手段となるだけでなく、防衛される対象ともなります。例えば、顔認証システムのAIや自動運転システムのAIがハッキングにより改ざんされると大きな被害を出す可能性があります。

サイバー攻撃の高度化は避けられない問題であるため、今後AIを用いたサイバーセキュリティへの注目はますます増していくでしょう。

8. NeRF(ナーフ)

ナーフとはNeural Radiance Fieldsの略で、複数の視点の画像から、新たな視点の画像を合成して作り出す技術のことを指します。(こちらから実際の様子を見ることができます

深層学習によって生成された画像を使って、好きな視点から対象物を見ることができます。視点を変えるたびに新たな画像が生成されるので、立体的な映像を眺められます。自動生成された画像では、光の反射具合や透けて見える景色の映り具合といった複雑な情報を再現することは難しいとされていましたが、ナーフを用いれば、そういった課題が解決されます。

さらに特徴的なのが、従来、機械学習を用いて画像を生成する場合、CNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)という技術が用いられていましたが、MLPMultilayer perceptronニューラルネットワークという新たな手法でより精度の高い画像を生成する点です。仕組みとしては、AIが撮影した画像の各点の位置(複数視点の3次元座標)と見る角度(2次元の視線方向)の情報から物体の密度と色を予測し、これを基に画像を合成します。

今後、VR・ARの発展に大いに貢献していくことが予想されます。

9. NFT×AI

今、世界中で注目を集めるNFT(ノンファンジブル・トークン)もAIとの親和性が高いテクノロジーと言えます。

まず、NFTについて簡単に説明すると、ノンファンジブルが「代替不可能・唯一無二」、トークンが「代用貨幣」を意味します。つまり世界に一つだけのデジタル資産ということができます。よく混同されがちなビットコインに代表される暗号資産は、代替不可能ではなく、「代替可能」であることに注意が必要です。

NFTも暗号資産もブロックチェーンという同じ技術が使われているのですが、NFTはブロックチェーンの中に個別の識別子が記録されているため、代替不可能性があるのです。野球ボールには大した価値はありませんが、有名選手のサインがついた途端に固有の価値をもつ、この世に1つだけのものになることと似ています。

では、NFTとAIを活用した3事例を見ていきたいと思います。まず、AIの生成物をNFTとして取引する事例です。AIは絵画、音楽、小説など様々な芸術作品を生み出すことができます。既に、これをNFTとして取引する企業が多く現れています。

次に、NFTにAIを組み込む事例です。有名キャラクターのチャットボットなどがその例です。

そして、AI駆動型NFTプラットフォームです。これは、NFTの取引を行いたい者同士を効率よくマッチングさせるシステムを搭載したプラットフォームがその例に当たります。この分野はNFTの注目度の高まりに合わせて盛り上がっていくこと間違いなしだと言えます。特に、日本は世界の中でもトップクラスに版権・IP・コンテンツを有しているため、この分野での活躍が期待されます。

10. AI×メタバース

まず、メタバースとは一つの仮想空間内において、様々な領域内のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供されるプラットフォームのことです。

では、メタバースとAIを組み合わせることによりどんなことが可能になるのでしょうか。この二つを組み合わせることにより私たちはより仮想空間に没入していくことが可能となります。例えば、敵対的生成ネットワーク(GAN)などの機械学習技術を使用すれば、デザインのスキルのない人でも簡単に自分の分身アバターを作り、仮想世界にもう一人の自分を生み出すことが可能となります。

* 敵対的生成ネットワーク(GAN)について詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

自然言語処理技術の研究がさらに進めば、まるで人間と喋っているようなコミュニケーション体験も可能となるだけでなく、GANの技術を応用すれば人間の動きを学習し、アバターが人間のように振る舞うことが可能となり、私たちはAIと人間を区別することができなくなるかもしれません。そうすれば、恋愛対象や親友がAIとなっていく可能性があります。

* 自然言語処理について詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

AR(現実世界に、デジタル情報を重ね合わせて表示する技術)を使用して重畳することで視覚から味覚を錯覚させるGANを用いたリアルタイム味覚操作システムも開発されています。

Facebook(現Meta)の社名変更等によりメタバースは盛り上がりを見せており、更なる開発が進む可能性が非常に高く、要注目のトレンドです。

* AI×メタバースについて詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。