アメリカの裁判所、「AIは特許の発明者になれない」と判断

2021年9月4日、ヴァージニア州東部連邦裁判所が、人工知能(AI)を米国特許の発明者として登録することはできないとの判決を下しました。

本記事では、訴訟の経緯と判決理由、他国の状況などについてご紹介します。

1 アメリカではAIは発明者になれない

まずは、今回の訴訟の経緯と判決理由を見ていきましょう。

(1) 訴訟の経緯

「Artificial Inventor Project」メンバーの Stephen Thaler 氏が食品容器に関する技術と懐中電灯に関する技術の2つについて「Dabus」 という名のAIを発明者とする特許申請をしたところ、米国特許商標庁(USPTO)が「発明者になれるのは人のみである」としてその申請を退けたため、同氏がUSPTOを相手どって訴えを起こした、というのが今回の訴訟の経緯です。

(2) 判決理由

Thaler 氏は、「発明品を考案したのは自分ではなく、これに関する知識もない」とし、あくまで発明者はAIであると主張しましたが、 ヴァージニア州東部連邦裁判所は、Thaler 氏の訴えを退けました。

同裁判所の Brikema判事は、最新のアメリカ特許法が発明者を「individual」と定義している点や、同法が「himself」や「herself」といった単語で発明者を表現している点などに着目し、同法の発明者は人に限られると判断したのです。

2 AIが発明者になれる国

実は Thaler 氏は、上記と同様の特許出願をアメリカ以外にもEU、イギリス、オーストラリア、カナダ、ブラジル、中国、インド、日本、韓国、ニュージーランド、スイス、イスラエル、南アフリカ、台湾で行い、世界的な規模のプロジェクトとして展開しています。

これらのうち、南アフリカでは、2021年6月に、裁判所による判断を経ることなく、AIを発明者とする特許が認められました。

また、オーストラリアのメルボルン連邦地方裁判所は、同年7月30日、発明者が人であることを必要とする規定が特許法に存在しないことなどを理由に、「AIは発明者となりうる」との判断を下しました。

3 様々な議論

AIを発明者として認めない場合は、特許権の所在を決めることが難しくなるという問題が生じます。AIには、プログラマーや操作者、データ入力者など、様々な立場の人が関わるからです。

他方で、AIを発明者と認めた場合については、「大企業が資本に任せてAIで特許を量産し、自由な着想を妨害してしまうのでは」といった意見や、「AIを用いた発明とAIによる発明の区別に困る」といった意見があります。

こうした議論は引き続き巻き起こるものと思われ、欧米・オーストラリア・南アフリカ以外の国での司法判断が待たれます。