製造業界のAI革新「ウラ事情」…AIは製造業に役に立つ??

産業全体にAI導入の傾向が高まっている昨今、効率と品質、精密さを必要とする製造業界にAI導入の流れが向いてくるのは自然のことと言えます。しかし意外にも日本の製造業はいまだにAI化が十分に進んでおらず、アメリカやドイツが積極的に製造業のICT化を進めてきた中、日本の製造業はICT技術において一歩後れを取っていると考えられています。    

そうした状況において、日本はいかにAI技術を活用してICT化を進めていくのでしょうか。

製造業界の現状

製造業にAIを活用するメリットは多岐にわたります。単純作業の担当を人からAIロボットに置き換えることで人件費削減につながります。また人による監視よりも高精度に異常・故障を検知することが可能です。さらに機器の稼働をAIに任せることで、人的ミスを抑えることが可能となる上、リアルタイムでの判断により稼働を最適化することもできます。

そうしたAI導入によるメリットは、製造業に携わる大半の企業が実感しています。それにも関わらず、導入に踏み切れていない企業が多いのが現状です。そうした事態を引き起こした原因をいくつか挙げてみましょう。

コストへの懸念

最先端機器となるとやはり導入する際のコストが一つの懸念点となります。どのような規模の企業にとっても、多額の費用に見合った成果を期待できるかについて慎重な判断を要することでしょう。

データ集計の複雑さ

製造業で必要となるデータは企業によっても、また企業内においても多岐にわたります。単にデータを集計して分析し、効率化を図るといっても実際の現場でどういったデータを集計し、AI処理を任せればいいのかを明らかにする必要があります。そうした点で、人工知能を有効活用するには十分な知識と判断力が必要となります。それがAI導入から一歩避けがちになってしまう要因となっています。

現場の技術者とデータ分析者の思惑の乖離

上述のように、人工知能を業務で最大限活用するにはAI関連のデータ分析の専門家が不可欠となります。しかし、単に専門家を雇えば良いという話ではありません。なぜならそうした専門家は、製造業の業務に精通しているわけではないからです。実際に現場で働いて初めてニーズや必要なデータが分かるため、現場の技術者の思い描く目標と専門家がデータ分析に基づいて構想する目標とにずれが生じてしまうのが通常です。

この他にも、企画・導入段階において様々なハードルが存在しています。AI導入が製造業界に完全に浸透するにはまだ時間がかかりそうです。

製造業におけるAI活用事例

そうした現状の中、実際にAIを活用している事例にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

工具の寿命、破損検知(山本金属製作所)

山本金属製作所は、10年以上蓄積した自社の切削データを分析したAI機器が工具の状態をリアルタイムで計測することで工具の寿命や破損前に生じる異常波形を検知し、自動で動作を停止させるシステムを開発しました。

これにより、熟練工の整備工数と機械停止による生産ロスを約半分まで低減させることに成功しました。

最新鋭タイヤ成型システム(株式会社ブリヂストン)

株式会社ブリヂストンが開発したタイヤ成型システム「EXAMATION」は技能員のスキルに依存してきた従来の生産工程や品質保証の判断・動作をすべて自動的に行います。タイヤ1本あたり480項目の品質データをセンサーで計測し、全ての部材が最適条件で組み立てられるよう、リアルタイムで自動制御する人工知能を実装しています。

AIを活用した原料検査装置(株式会社キユーピー)

キユーピーは惣菜の原料となるカット野菜の検査にAIを活用した原料検査装置を導入しました。従来の原料検査装置では、色差などの画像処理で不良品のパターンを学習させる手法が一般的でした。しかし、変色や変形、さまざまな夾雑物など不良のパターンが無限にあることから、高い精度を出すのが困難でした。

一方、キユーピーが開発した原料検査装置では、発想を逆転し、ディープラーニングを活用した画像解析により良品のパターンを学習させます。これにより、「良品以外」をすべて「不良」として検出することが可能になり、精度が飛躍的に向上します。

まとめ

これまで述べてきたように、製造業にAIを浸透させるには未だに様々な課題があるのが分かったのではないでしょうか。その一方で十分に活用している企業も急速に増えてきているのも事実です。進行していく少子高齢化の中で、これからどのようにAI導入が進んでいくか、期待したいところですね。