国立天文台、AIを用いてダークマターの地図からノイズを取り除く手法を開発

宇宙のすべてを解明するのに避けては通れない、「ダークマター」の解析にまた一つ進歩がもたらされた。

国立天文台(所在:東京都三鷹市、台長:常田佐久氏)と統計数理研究所(所在:東京都立川市、所長:椿広計)は深層学習を用いて宇宙を解析した結果得られるダークマターの分布データからノイズを取り除く手法を発表した。同成果は、国立天文台/統数研の白崎正人助教、東京大学の森脇可奈大学院生、千葉大学統合情報センターの大木平研究員、東大の吉田直紀教授、統数研の池田思朗教授、京都大学 基礎物理学研究所の西道啓博特定准教授らの共同研究チームによるもので、The Royal Astronomical Societyに詳細が掲載された。

ダークマターとは、天文物理学の理論では解明されている限り説明できない現象に説明をつけるために仮想的に規定された物質の総称であり、間接的にその存在を示唆するような観測事実が複数あるものの、依然その正体は解明されておらず、今回の新手法が研究を推し進めることが期待されている。

ダークマターは質量を持つものの、光学的に直接観測することはできない。光とは相互作用しないためである。よって質量の発する重力場により空間が屈曲する「重力レンズ効果」を利用して間接的に観測が行われている。そうして生じた銀河の像の歪みを統計的に処理することにより、どの方向にどの程度ダークマターが存在するのかを推定することができ、その分布を地図化して得られる観測成果を「レンズマップ」と呼ぶ。

しかし宇宙には様々なノイズとなる要因が存在し、ダークマターが観測対象域に十分存在しない場合、こういったノイズに埋もれる形でダークマターの分布が正しく得られないことがこれまでの研究で分かっている。こうした場合、観測対象域を広げることで空間中のダークマターの量を増やし、ノイズの影響を十分に抑えることができるが、研究設備のリソースの観点からそれが困難な場合が多い。  

そこで今回の国立天文台の研究では、観測によって得られたノイズを含んだ状態のデータを敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks: GAN)と呼ばれる深層学習における手法を利用することで、レンズマップからノイズを取り除くことに成功した。

今回開発された技術は今後、現在HSC(超広視野主焦点カメラ)で実施中の銀河観測の観測結果に適用され、1400平方度(およそ満月7000個分)に及ぶダークマターの詳細な地図を描き出す予定だ。これを調べることによりダークマターを構成すると考えられる素粒子の質量や、ダークマター間の相互作用に関しての情報を得ることが期待されている。