株式会社PKSHA Technology
株式会社PKSHA Technology(以下、PKSHA)は2012年に設立された東京大学発のAIスタートアップで、自然言語処理をはじめとして画像認識や機械学習、深層学習技術を用いたアルゴリズムを開発し、大企業を中心にそのアルゴリズムを提供することでライセンス料を得るビジネスモデルをとっています。数多くの大企業との取引を経て2017年の9月、設立から僅か5年にして東証マザーズに上場を果たしました。
事業内容
・自然言語処理、画像認識、機械学習/深層学習に関わるアルゴリズムを開発
・開発したアルゴリズムをライセンスとして提供する
代表取締役 上野山 勝也
1982年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了後、新卒でボストンコンサルティンググループ(以下、BCG)に入社し、4年間のコンサルタントを経てアメリカにてグリー・インターナショナルの立ち上げに参画。その後東京大学に復学し松尾研究所のもとで機械学習について学び博士号を取得。2012年、株式会社PKSHA Technologyを創業。
創業の経緯とビジョン
創業の経緯
PKSHAは日本のAI研究の権威である東京大学松尾研究室の出身者らによって創業されました。代表取締役である上野山氏は修士時代に訪れたシリコンバレーのツアーをきっかけとしてデジタル技術に興味を持ち始め、新卒で入社したBCGにてデジタル業界及び製造業界でのコンサルティング業務に従事するうちにデジタル技術への興味に拍車がかかったといいます。まもなくして東京大学に復学し松尾研究所のもとでAIについて学びを深めたのち、2012年に起きた深層学習のブレークスルーを機に研究室のメンバーと起業を決意しました。
ビジョンと見据える未来
PKSHAは『未来のソフトウェアを形にする』というビジョンを掲げ、アルゴリズムの力で社会的課題の解決を図ろうとしています。未来のソフトウェアは人々の能力を代替するわけでも、仕事を奪っていくわけでもないとし、それどころか真に人々の多様性を実現させるものであると考えています。従来のように人が”主”でソフトウェアが”従”であるような関係ではなく、人とソフトウェアが相互に関わりながらともに進化していくような、そんな未来を見据えています。
AI活用について
ここまで述べたように、PKSHAはAI技術を駆使した各種アルゴリズムを開発し、それを企業に提供することによりライセンス料を得ています。実際に提供しているアルゴリズムにはどのようなものが存在しているのについて、モジュールごとにみてみましょう。
テキスト理解モジュール
テキストデータの意味理解を行うアルゴリズム、テキストの内容を理解し、それを分類及び類型化します。具体的な用途としては、社内文書から特定文書を抽出したり、コールセンターに蓄積されたログを分析し可視化したりするといったことがあげられます。
対話モジュール< Dialogue_2>
自然言語処理技術を活用し対話及び応答の制御を行うアルゴリズムで、最適な対話シナリオを選択することができ、音声認識への応用も可能となっています。具体的な用途としては、チャットボットやロボットとの自動対話などがあげられ、既に導入実績もあります。
画像/映像解析モジュール< Recognizer>
ディープラーニング技術を活用し画像及び映像データを解析するアルゴリズムで、データ内の物体検出をはじめとして人物の表情検出や動作特徴解析なども可能としています。具体的な利用用途としては、店頭カメラの自動認識機能などがあげられます。
推薦モジュール< Recommender>
ユーザーの特徴や嗜好を分析し、個別最適化した情報をレコメンドする機械学習アルゴリズムです。具体的な利用用途としては、ECサイト上の商品推薦や各種SNSでのコンテンツレコメンドなどがあげられます。
予測モジュール
時系列情報を分析し、未来予測を行うアルゴリズムです。具体的な用途としては、金融機関での与信スコアの構築やECサイトにおけるユーザーの購買予測などがあげられます。
異常検知モジュール< Detector >
データを比較し、異常がないかどうかを検知するアルゴリズムです。具体的な用途としては、工場の検品処理の自動化及び半自動化や、ウェブサイト上における不適切なコンテンツの検出などがあげられます。
強化学習モジュール
各種データから学習を行い数ある選択肢の中から最適解を導こうとするアルゴリズムで、特に他のアルゴリズムモジュールと組み合わせることが可能となっています。具体的な用途としては、推薦モジュールと組み合わせて最も購買率が高くなるようなレコメンドを行うなどといったことがあげられます。
知財情報について
株式会社PKSHA Technologyは、2022年5月現在、特許を10件出願しています。
出願傾向
2013年より合計10件の特許出願を行い、現在は7件が公開中となっています。
公開中の特許の中でも共同出願の特許が3件と、共同出願の割合が40%を超えているのが特徴で、これまでトヨタ自動車株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、株式会社ベネッセコーポレーション、綜合警備保障株式会社らと共同出願を行っています。
その概要は以下の通りで、同社の技術を他分野において活用した特許について共同出願が行われていることからPKSHA Technology社の技術の汎用性が高いことが伺えます。
出願番号:2020135741
「学習支援システム、情報処理装置、情報処理方法及びプログラム」
株式会社ベネッセコーポレーションと共同出願
出願番号:2020127144
「渋滞検知装置、渋滞検知システム、および、渋滞検知方法」
綜合警備保障株式会社と共同出願
出願番号:2018148679
「音声対話システム」
トヨタ自動車株式会社と共同出願
出願番号:2018059747
「ペット動画解析装置、ペット動画解析システム、ペット動画解析方法、及びプログラム」
東京電力ホールディングス株式会社と共同出願
引用傾向
また、特許の被引用について注目すると、ヤフーやピンタレスト、KDDIなど複数大手企業から引用されていることが伺えます。このことからもやはり同社が汎用性の高い技術を保有していることが推認できます。
今後の展開
PKSHA は2021年10月時点で2354社への導入実績を持ち、一日あたり930万人以上の利用ユーザーが存在しているといいます。特にLINEやトヨタ自動車、NTTドコモをはじめとする大企業を顧客に持っていることから、大量かつ有用性の高いデータを収集することができ、それを基にソフトウェアの更なるブラッシュアップを図ることができます。
さらに同社は「AI SaaS Company」に進化することを目指し、2021年9月期までの「Cloud Intelligence事業」と「Mobility & MaaS事業」から「AI Research & Solution事業」と「AI SaaS事業」へ事業セグメントを区分変更しました。多くのAI スタートアップがSaaS化するのに苦戦している中、事業セグメントの転換を図り今後より一層SaaSに注力していくPKSHA の動向に注目しましょう。