アパレル業界の現状
現在、アパレル業界は様々な問題を抱えています。最大の原因は、需要と供給がマッチしていないことにあります。需要が少ないにも関わらず、供給過多を起こし、その結果在庫が多くなり、結果的に処分してしまうという「在庫ロス」という問題が顕著になっています。さらに最近では、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により実店舗の営業利益が減少しているという問題もあります。
今後、ますますオンラインでの販売数が増加していくと予想される中、AIの導入はアパレル業界を救う鍵になりえると予想します。実際に、AIを活用した新サービスの提供によりアパレル業界を変革しようとする動きもあります。この記事では、アパレル業界においてAIの導入がどのように進んでおり、またそれがどのような影響を及ぼしているのかについて説明していきます。
業界を変えるサービス
AI活用によるマッチングサービス
まず、AIを活用してアパレル業界が抱える問題を解決しようとするサービスについて紹介します。それは、KOLテクノロジーズ株式会社が提供する「アパレル企業の在庫商品と影響力を持つインフルエンサーのマッチングサービス」です。
先述したような余剰在庫問題に加え、新型コロナウィルスの影響による販売数(実店舗における)の減少の結果、大量の廃棄が発生し環境負担や経営不振など様々な問題がアパレル業界を圧迫していたということを背景に開発されました。
サービス概要としては、インフルエンサーのSNS上の投稿画像、フォロワーをAIが画像解析、言語解析しインフルエンサーに合った商品をリコメンドしてくれるというものになっています。このサービスの驚くべきポイントは、インフルエンサー、会社、顧客の3者全員に利益があるということです。それぞれ説明すると以下のようになります。
- インフルエンサー
自己ブランディングができるとともに、自己負担を一切せずに自身のセレクトショップを開設することができます。 - 企業
今まで廃棄していたものを商品として販売することができるとともに、廃棄にかかる環境負担を軽減することができます。さらには、顧客データの活用により需要予測も可能となります。 - 顧客
自身が好きなインフルエンサーがおすすめする商品を本来の価格よりも安く購入することができます。
このようにして、従来処分していた商品を利活用することで余剰在庫問題を解消し、さらには在庫処分の廃棄に伴う環境負担の軽減、そして企業の経営状況を改善させることが可能となります。
AI活用した需要予測サービス
もう一つの例として、AIの社会実装を手掛ける企業と経営コンサルティング株式会社の共同開発によってアパレルの需要予測を行い、余剰在庫問題を解決しようと試みるものも見られます。具体的に見ていくと、ローランド・ベルガーが現行MD業務*の分析・課題抽出を行い、ABEJAがAIを活用してデータ分析と予測モデルの開発を行うことで、機械学習モデルを活用した「需要予測コンサルティングパッケージ」を提供する、といったものです。
ローランド・ベルガーが持つ経営コンサルティングの知見と、ABEJAが持つAI技術力とをかけあわせ、アパレル業界全体の課題解決に繋がる価値創出を目指しています。
*MD業務とは
マーチャンダイジングの略称。一般的には、消費者の欲求・要求に沿う商品を適切な数量、適切なタイミング等で提供するための企業活動、商品化計画のことです。大まかな仕事の流れは「調査」→「企画」→「生産」となっています。
AIを活用したパーソナライズ機能
最後に、アパレル業界全体ではなく、個人に着目し下から業界全体を盛り上げようするサービスについて紹介します。ファッションにおいて最も重要なことの一つは、個々人にあった服を提案することです。いかに魅力的な服であっても、その個人に合わなければ意味はないのです。そういった背景から、近年ではAIを導入したパーソナライズ機能に注目が置かれています。この機能は、個々人に着目して需要予測を行うものであり、アパレル業界全体の需要予測を行うAIの縮小版ともいえます。具体的にいくつかのサービスを見てみましょう。
1つ目の例として、ユーザーの購買記録や記事閲覧記録をAIが分析し、個々人に合ったアイテムやショップ情報をリコメンドしてくれるといったサービスがあります。この機能によって顧客はAIがリコメンドしてくれた中からアイテムを選ぶことができ、時間効率が良くなります。
2つ目の例として、AIが個人のアイテムを分析してコーデを提案してくれるというサービスがあります。このサービスによって既存のアイテムの組み合わせを考えるだけでなく、新規でアイテムを購入しようとする際にあらかじめ参考にすることができ、購入時の効率化が期待されます。
以上で紹介したようなAIを導入し個々人に着目したサービスの展開は、結果的に、需要がないアイテムを削減することが可能となります。
まとめ
以上、ファッション分野で導入されているAIの紹介でした。前半部分ではアパレル業界全体に寄与するサービスを紹介し、後半部分では個人に着目したサービスの紹介をしました。
他の業界と比べてAIの導入が遅れているアパレル業界ですが、導入することによるメリットが大きいのも事実です。今後さらなるAIの導入によって新たなサービスが展開していくことを期待しましょう。