AIを導入した自動運転は本当に安全なのか⁈ -今さら聞けない自動運転の現状と今後の展望

AIによる完全自動運転が実現し、自動車に乗っているだけで目的地に到着する―そんな夢のような日が来るのもそう遠くないでしょう。しかし、AIによる自動運転は本当に安全なのでしょうか。走行中、もしシステムが急にダウンしたら…歩行者を認識できず轢いてしまったら…そういった様々な不安を拭えないのも事実です。この記事では、自動運転の仕組みから導入状況、実証実験の結果、そして自動運転によって得られる恩恵まで、自動運転に関して包括的に説明しているのでぜひ見てみてください。

自動運転の仕組み

まず、自動運転がどのような仕組みによって成り立っているのかについて説明します。自動運転の仕組みは、次の4段階に大きく分類されます。

  • 情報収集プロセス
  • 情報認識プロセス
  • 判断プロセス
  • 制御プロセス

それぞれ細かく見ていきましょう。

情報収集プロセスでは、道路標識や障害物といった静的情報から、歩行者や対向車などの動的情報までのあらゆる情報を収集します。これらの情報収集を可能とする技術は、障害物との距離を計測する赤外線レーザーやミリ波レーザー、そして車載カメラなどです。また、渋滞情報などの交通状況についてはGPS技術を活用しています。

情報認識プロセスでは、情報収集技術によって集められた情報を認識し、分析します。レーザーが測定した障害物までの距離や、車載カメラが認識した被写体が何であるかの判断、そして動く被写体の進行速度などを分析し、次の行動決定に活用します。また、GPSやITS*で受信した情報は、安全かつ最適な走行ルートや走行モードを選ぶための判断材料として活用されます。

*ITS…Intelligent Transport Systemsの略称。人と道路と自動車の間で情報の受発信を行い、道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策など、様々な課題を解決するためのシステム。

判断プロセスでは、情報認識プロセスで得られたデータをAIが分析し、安全に目的地に到着するための運転方法や運転ルートを判断し、決定します。歩行者や自転車の飛び出し、対向車の車線はみだしから雨や雪などの気象の変化まで、様々な状況に柔軟に対応する方法を自ら学習し、走行を重ねる度に安全な判断を可能にします。

制御プロセスでは、安全に走行・停止できるようにハンドル操作やブレーキ操作などを制御します。急な操作による事故を防ぎ、車両機構を制御・修正しながら調整します。

これら4つのプロセスの中で一番重要なのは判断プロセスであり、この領域においてAIが活用されています。一見、歩行者や自動車の存在を把握する情報認識プロセスが重要かと思われますが、重要なのは判断プロセスです。なぜなら、どれだけ被写体の情報を正確に把握しても避けたり停止したりしなければ何の意味もないからです。被写体を把握し、その結果「避けるか否か、停止するか否か」という判断を下すことが安全な運転をするうえで一番重要なのです。

自動運転の導入状況

次に、自動運転がどの段階まで導入されているのかについて説明します。

現在、Alphabetやテスラなどの大企業に限らず、あらゆる企業で自動運転によるビジネスが進められており、また、自動運転を想定した法整備も進められています。

日本国内においては、2020年4月には道路交通法が改正され、高速道路など一定の条件下で自動運転できる「レベル3」の自動車が公道を走ることができるようになりました。「レベル3」と言われてもピンとこないと思いますので、まずレベル分けについて説明します。

現在使われている自動運転のレベル分けは、自動運転技術の標準規格に大きく影響を持つアメリカの非営利団体SAE(Society of Automotive Engineers)が2016年に定めた「SAE J3016」が基本となっています。国土交通省からも、SAEが定義した基準をもとに自動運転のレベル分けが発表されています。(以下参照)

レベル概要
レベル0
運転自動化なし
運転者が全ての運転操作を実施
レベル1
運転者支援
システムが前後・左右いずれかの車両制御に係る運転操作の一部を実施。
レベル2
部分運転自動化
システムが前後・左右の両方の車両制御に係る運転操作の一部を実施。
レベル3
条件付運転自動化
システムが全ての運転タスクを実施(限定条件下) システムからの要請に対する応答が必要。
レベル4
高度運転自動化
システムが全ての運転タスクを実施(限定条件下) システムからの要請に対する応答は不要。
レベル5
完全運転自動化
システムが全ての運転タスクを実施(限定条件下なし) システムからの要請に対する応答が不要

このようにして、自動運転のレベルは0~5の6段階に分けられていますが、国内外どちらもレベル3までしか導入されていないというのが事実です。その理由については次のパラグラフで説明します。

完全自動運転が実現しない理由

国内外における自動運転の導入はレベル3に留まっているのは、どうしてでしょうか。それには大きく分けて2つの理由があります。1つ目は技術の問題で、2つ目は法規制の問題です。1つ目の技術の問題に関して、画像認識技術や判断能力がまだまだ未熟であることから、現在各自動車メーカーにおける運転開発状況はレベル3に留まっているというのが現状です。今後、10年~20年以内にレベル4,レベル5と展開していく予定とのことです。

2つ目の法規制に関して、国際道路交通の発達や安全を促進する目的で制定された国際条約であるジュネーブ条約では、ドライバーの乗車が義務付けられています。そのため、完全自動運転を実現するためには、国連においてジュネーブ道路交通条約の改正が必須です。また、自動運転による事故発生確率は0ではありません。そのため事故が起こったときに、倫理的あるいは法的な責任の所在をどこに求めるのかという問題があります。その状況を想定した法律を定めておかなければならないのです。

それでは、読者の皆さんが気になっているであろう、導入試験の結果について、次のパラグラフで説明します。

実証実験結果

ここでは、国内外で自動運転の実証実験を行った結果、どのような事故が生じたのかについて紹介します。国内外含めた自動運転による事故は合計で8件確認されています。そのうち、死亡事故は海外における3件となっており、うち2件はシステム警告を人間が無視した結果起こった事故となっています。もちろん、死亡事故が発生したという事実から安全性に問題があることは否めないのですが、一概に自動運転の安全性を全否定することはできません。

先述したように、一口に「自動運転による事故」といっても、自動運転を過信するあまり注意散漫になった結果の「人的ミス」による事故も多いのです。今後さらに、実証実験を重ね極限まで事故を起こす確率を下げたとき、人間の不注意や判断ミス、睡眠不足による思考低下など様々な要因から起こる自動車事故よりも、圧倒的に事故確率が低くなると予想します。年間135万人、すなわち24秒に1人が交通事故により死亡している状況も、安全な自動運転の導入によって改善されるでしょう。

最後に、安全な自動運転は私たちにどのような恩恵をもたらしてくれるのかについて、見てみましょう。

自動運転がもたらす恩恵

死亡事故が起きていることから自動運転を不安に思う方も多いと思いますが、もちろん自動運転によって得られる恩恵もあります。

まず、渋滞の解消が挙げられます。AIを搭載した自動車は速度を自動管理できるとともに、交通状況をリアルタイムで把握することができます。なにより渋滞の原因である、高速の合流地や坂道、トンネル入り口等におけるブレーキ操作が減少するため先行車との車間距離を一定に保つことができます。

また、自動運転機能を備えた車であれば障害者や高齢者といった運転能力が低い方でも利用しやすくなっています。加えて、必要な時にだけ配車することで、従来よりも駐車スペースを節約することができます。

さらに、人材不足が深刻化している運送業を例にとってみると、自動運転を導入することによって、長時間運転によるドライバーの身体的負担が軽減され、事故発生率を抑えることができます。また、隊列走行するトラックの自動運転化が進めば、人件費の削減にも繋がります。このように、自動運転は様々な恩恵をもたらしてくれると考えられています。

まとめ

以上、自動車分野で導入されているAIの紹介でした。現段階ではレベル3までの自動運転が実用化されており、今後はレベル4、レベル5と実用化されていくと予想されています。現在、事故確率は少ないまでも自動運転による死亡事故が発生しているという事実を踏まえて、さらなる実証実験を重ね安全性を担保する必要があります。

さらに、レベル3から次の段階へ移行するには技術の問題だけでなく、法的問題も考慮しなければなりません。完全自動運転までの道のりはまだ長いと言えます。この道のりを超え、完全自動運転が実用化された暁には、上記で述べたような様々な恩恵が私たちのもとにもたらされるでしょう。今後の自動運転の発展を期待しましょう。