AI×バイオで新たな可能性 AI活用最前線

様々な産業分野に導入されているAI技術ですが、近年ではバイオ技術との融合の傾向も見られます。バイオ技術にAIを活用することで遺伝子情報の分析を加速させることが可能で、医療分野のほか、製造業や食料分野など幅広い産業への応用が期待できることが分かっています。

2016年には経済産業省が産官学の共同研究組織の創設を検討し、「バイオ×AI」分野における基礎技術の開発を進めました。機械学習の進化により、科学的発見の可能性が拡大し、生化学のような要素還元的手法や、量子化学のような確率論的手法を組み合わせた生命科学分野が発展していく見込みです。

グローバルにみる技術背景

技術背景としては、識別モデル分野において2012年「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」が画像認識で従来手法と比較して圧倒的精度を発揮し、2015年に人間による画像認識のエラー率を下回り、2018年には糖尿病網膜症を検出するAIを用いたデバイスを米国FDAが医療機器として初めて承認しました。

一方生成モデル分野においては2014年、画像生成のためのアルゴリズム「敵対的生成ネットワーク(GAN)」を発表し、2018年には分子化合物の特定から前臨床試験まで従来2~3年要していたところAIを活用してわずか21日で完了したという論文を発表しました。このように、AI技術を活用するとバイオ技術の進展が圧倒的に加速するということが明らかになってきました。

大学の先端的研究

東京工科大学では人工知能技術を様々な議題解決や新たな価値創造につなげようとする時代の流れを受け、全学を挙げたAIの応用研究が行われています。その中でも、応用生物学部ではバイオ分野にAIを活用する二つの研究を行っています。

一つは、がん幹細胞を活用した抗がん剤探索にAI技術を利用する研究です。数千枚のがんiPS細胞の細胞画像をAIに深層学習させ、がん幹細胞を効率的に写真判断するシステムを作ることを取り組んでいます。そうしたシステムを利用して新しい抗がん剤を発見する研究を推進することを視野に入れています。もう一つはAIを活用したサケの雄雌判別です。サケの雄と雌が持つ、それぞれの身体的特徴をAI技術を活用した画像解析で捉え、雌雄を自動判別しようという試みです。応用生物学部では最終的に魚の加工工場に導入できるような実用的なシステムの開発を目指しています。

さらに広島大学はプラチナバイオ株式会社、凸版印刷株式会社と共同で、AIを活用し、ゲノム編集のデータ処理を簡易化するゲノム編集支援オープンプラットフォーム「Genome Editing Cloud™」β版を開発しました。

ゲノム編集とは、目的とする遺伝子を狙った特性に改変する技術のことで、すでに医療分野では新たな治療法や新薬の開発に利用されています。また農畜水産業や工業(バイオものづくり)などさまざまな分野においても革新的な基盤技術として今後活用されていくことが期待されています。

https://www.toppan.co.jp/news/2021/03/newsrelease210305_1.html

近年、ゲノム解析技術の革新により大幅なコスト削減・高速化が実現し、ヒトを含むさまざまな生物のゲノム情報や遺伝子情報が解読され、データベース化されています。また、ゲノム編集技術が発明されたことにより、目的とする遺伝子を狙った特性に改変することが可能になりました。これらの技術革新は医療をはじめ多岐にわたる産業への応用が進められています。現在、ゲノム編集に携わっている研究者は主に、生物学や医学を専門としており、膨大なゲノム情報を取り扱うことや解析が大きな負担となるため、ゲノム編集の研究開発が遅延する要因となっています。そこで、三者はゲノム編集のデータ処理を簡易化し、研究開発をサポートするITツール「ゲノム編集支援オープンプラットフォーム」が求められていると考え、NEDOの助成事業において、その開発に取り組んでいます

https://www.toppan.co.jp/news/2021/03/newsrelease210305_1.html

バイオ×AIを活用した製品例

「画像活性セルソーター(ENMA)」CYBO株式会社

高速イメージング×AIでターゲット細胞を分取し、その高度な解析や利用を実現するセルソーターです。非常に複雑で巧妙なシステムを持つ細胞を計測、解析することは医療や環境、バイオ生産など生命が関わる諸問題に取り組む際の重要なポイントとなっています。

バイオティクスの今後

ここまで見てきたように、ヘルスケア、ゲノム編集から繁殖への応用まで、バイオ分野において多岐にわたる技術がAIによって革新的に発展していくことが分かります。今後のAI技術とバイオテクノロジーが織りなす「化学反応」に期待です。