AIが人間を超える?!シンギュラリティとは何か

近年AI(人工知能)は目覚ましい発展を遂げており、人工知能が様々な能力を持つようになってきています。将来的には、人工知能が人間の仕事を奪う、人間の能力を超える、さらには人間を支配する、とまで言われることもあります。本記事では、そのような中でよく使われる「シンギュラリティ」という言葉について説明します。 

シンギュラリティとは 

「シンギュラリティ」は人工知能研究の世界的権威であるレイ・カーツワイルによって提唱された概念で、日本語では「技術的特異点」と訳され、人工知能が人間の能力を超越し、それによって人間の生活に大きな変化が起こる点を意味しています。シンギュラリティが起こった先には、人工知能が自らさらに優れた人工知能を再帰的に創造していき、圧倒的に高度な知性が生み出されると予測され、ついには人工知能が社会を動かし、人間を支配するようになるのではないかとまで懸念されています。 

シンギュラリティが与える影響 

シンギュラリティを超えた時点でテクノロジーは指数関数的に進歩すると考えられています。 AIが人間の脳を超えることによって、AI自身がより優れたAIを造り出せるようになります。その結果として、新たな発明が不要となったり、人間の仕事が奪われたりすると予想されています。それでは、仕事の在り方はどのように変容するのでしょうか。 

一般事務員や銀行員、建設作業員、小売店店員、運転手、工場勤務者などの仕事はすぐにAIに取って代わられるとされています。AIにいち早く奪われる仕事の主な特徴は、人間よりもAIの方が正確に行うことができる、作業効率が上がる、AIが人間の代わりに全てをこなせる、といった点です。たとえば、データや数字を扱う仕事は、AIが得意としている仕事のひとつです。計算や計測などの仕事は、人が行うよりもAIが行う方がミスが少なく、その作業をすべてAIが行うことができます。同様に、デスクワークや資料整理、文字入力、機械操作などの単純な定型業務についても、AIに奪われやすいと考えられています。 

一方で、経営コンサルタントや外科医、保育士、タレント、芸術家などの仕事はAIに奪われにくいとされています。AIに取って代わられ難いのは、複合的な知性や複雑な判断、ホスピタリティなどが要求される仕事、あるいは型にとらわれないような仕事などです。芸術など抽象的な概念への理解が求められる仕事が含まれるのは、AIにとって概念を理解することが非常に困難であるという予測が関係しているのでしょう。 

しかし、最近では医療AIの開発が進み、また、AIが小説や絵画を作成するようになってきています。こうした状況を鑑みると、それらの仕事が奪われるのも時間の問題といえるかもしれません。 

シンギュラリティはいつ訪れるのか 

人々の生活に多大な影響を及ぼすシンギュラリティはいつ訪れるのでしょうか。この点については、2030年問題と2045年問題という二つの説が提唱されています。 

2030年問題 

2030年にはスーパーコンピュータの演算速度が現在の1000倍になると予測されており、それによって人工知能が人間と同等レベルの知能を持つようになると言われています。また、スーパーコンピュータの開発者で、次世代の汎用人工知能の研究者でもある齊藤元章氏は、2030年にプレ・シンギュラリティが起こるのではないかと提唱しています。プレ・シンギュラリティとは「社会的特異点」を指し、現在の社会的なシステムが変化する点をいいます。スーパーコンピュータの飛躍的な性能の向上が大きな変革をもたらし、 そこに人工知能が加わることで、凄まじい進化となります。現在人間が抱える、エネルギーや食料などの資源の問題、紛争や戦争といった社会問題、さらには人間の病気や寿命などの問題、これらの問題はプレシンギュラリティが起こることですべて解決される、と齊藤氏は提唱しています。 

2045年問題 

レイ・カーツワイルは、2045年になると1000ドルのコンピュータの計算能力が、10ペタFLOPSの人類の脳の100億倍になり、シンギュラリティに達する知能水準が十分に育まれるのではないかと予測しています。この2045年という予測は収穫加速の法則に基づいており、この法則は、AIに限らず技術の進歩は一次関数的に向上していくのではなく、指数関数的に進歩していくというものです。AIの進化においても、ある発明が他の発明と結び付いて新たな発明への足掛かりとなり、これが繰り返されることで次の進化への期間が短縮されていくのではないかと考えられています。 

シンギュラリティに対する批判 

前述のような予測がなされるシンギュラリティについては、異議を唱える専門家も多くいます。

人工知能の権威であるジェリー・カプラン教授はシンギュラリティに対して懐疑的な意見を表明しています。「人工知能は人間ではないため、人間と同じようには考えない」と指摘し、「機械的な意味では知能を持つといえるが、その能力はあくまでも人間のためにある」としました。そして、「人工知能が人間の能力を超え、機械学習によって自立的発展を遂げることを危惧している人もいるが、ロボットには独立した目標および欲求がない」とし、「むしろ人工知能が及ぼし得る意図しない副作用やそれらに関連する規制の枠組み、基準をつくらなければならない」としました。

また、国立情報学研究所のセンター長で、東大受験を目指す人工知能“東ロボくん”の教育者でもある新井紀子氏も、「自然言語は数学では扱えない領域で、 AIの学習能力には限界があり、人工知能が人間の進化を越える日は来ない」と断言しています。

生物学的観点からの批判もあり、アメリカの生物学者ポール・ザカリー・マイヤーズ氏は、「カーツワイルは、人間の脳がシミュレーション可能になる時期を人間のゲノムの数を用いて見積っているが、生物のゲノムは半導体のトランジスターと同様に考えることはできず、脳の構造や成長を無視している」と主張しています。 

まとめ 

シンギュラリティ(技術的特異点)については専門家の間でも意見が分かれており、その到来は定かではありません。しかしながら、人工知能のさらなる進化は確実であり、私たちの生活も今後大きく変化するでしょう。今後の人工知能の発展に注視し、人間と人工知能の関係性についても考えていくべきでしょう。