液体に触れず!?カメラとAIで水質検査

水質監視とは、ある決まった地点または装置において、水質を測定し記録する体制および方法のことである。従来の方法では、異常検知に数日要するうえに高価な検査装置が必要である。また、目視による確認が主流であるために測定精度の問題もある。こうした問題を解決するためにAny Tech社よりAIで水面を監視することにより水質監視を行う「Deep Liquid」が開発された。今回はこの製品の秘める可能性についてみていきたいと思う。

水質監視の課題

安全な水は我々が生きていくうえで欠かせないものであるにも関わらず、機械の故障、人為的なミス、不法投棄、またはテロなどにより用水が汚染される事例が度々発生している。ゆえに水質監視は人々の健康的な生活を守るうえで重要なことなのである。

現在の水質調査の方法としては化学センサーや化学分析、バイオセンサーなどがある。化学センサーを用いた水質監視の場合、センサーが非常に高額なためにコストがかかる。化学分析の場合は、検査項目以外の化学物質が混入した場合、水質を判定することは難しくなる。バイオセンサーは、タナゴやメダカの様子を観察して水質の状態を確認するのだが、連続的・客観的な監視が不可能であり、観察のために多くの人手が必要となるためコストがかさむ。このように従来の水質監視方法には多くの課題がある。

Deep Liquid

そんな課題を克服するために開発されたのが水質判定AI「Deep Liquid」である。流体力学の知識を活用して開発されたAI水質監視ソリューションである。直接触れることなく、監視カメラの映像をAIが分析することにより、水のみならず油や薬品、溶けた鉄、チョコレート、煙など、さまざまな流体の異常検知を瞬時に行うことができる。これまで機械学習による画像認識の世界では静止画の分析が主流であり、動画の分析が必要な流体のAIによる分析は困難とされてきた。しかし、同社の独自技術によりそれが可能となった。よってこれまで水処理施設での水質監視の場合、異常発見に3日を要していたのが、同製品により瞬時にかつ99.9%の精度での異常の発見ができるようになった。

また、コストの面でも水質監視に必要な人員の大幅な削減にも貢献した。このような素晴らしいパフォーマンスが評価され大手企業に導入された。そのことによりさらなる流体監視に関するデータを得られるようになり、より製品の精度が向上した。また、同製品について海外の投資家も類を見ないAIソリューションだと舌を巻く。さて気になる料金についてだが、監視に使うカメラの台数ごとに月定額費用を課金するサブスクリプション形式となっている。

Deep Liquid 今後の展望

異常検知市場は世界全体で6兆円に及び、同社はその2割にあたる1.2兆円までシェアを拡大する目論みである。2019年にはプラント大手のJFEエンジニアリングに買収され、同社の完全子会社となった。それによりJFEEのもつ既存事業領域のアセットを活用しつつさらなる成長を目指す。

まとめ

現在、世界中で急速な経済発展に伴う水需要量や水質汚濁負荷の増大によって水に関する問題が深刻化している。この問題の解決のためにも水質観測システムの構築が重要である。今回紹介した製品はその解決の一翼を担う存在になると確信している。AIの進歩によりこれまで難しいとされてきた流体の分析も可能となったように、さらなるAIの進歩により、人類の抱える問題の解決が進むことを期待したい。

参照URL
プラント大手が称賛、AIで水処理施設の異常を見つける“液体分析”スタートアップ | DIAMOND SIGNAL
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