NASAとJAXAのAI活用

NASAとJAXAのAI活用

現在様々な分野でAI活用が加速度的に行われています。この流れは宇宙開発においても例外ではなく、Chat GPTなどのLLM(大規模言語モデル)を用いた自律型宇宙探査システムなどの開発が行われています。

では現在AIは宇宙開発においてどのような役割を果たしているのでしょうか。2024年5月30日現在NASAとJAXAで使用されているAIを用いたシステムを紹介し、その違いを考察しようと思います。

・NASAのシステム

以下は、NASAのAIシステムの概要と各システムにおけるAIの役割のまとめです。

1) AdaStress

概要: 複雑なシステムのテストには、コンピュータ支援の診断および修復が必要です。このシステムは、ストレステスト中に異常を検出し、対応を支援します。

AIの役割: AIは異常の検出と診断、システムの自動修復をサポートします。

2) Airplane Detection

概要: 高解像度の衛星画像からの飛行機検出を目的としています。

AIの役割: 深層学習を使用して、画像中の飛行機を高精度で検出します。

3)PeTaL (Periodic Table of Life)

概要: 生物にインスパイアされた解決策を提供するオープンプラットフォームです。

AIの役割: 生物学的データを解析し、新しい科学的発見を支援します。

4)ASPEN Mission Planner

概要: ミッション計画のためのモジュラーで再利用可能な計画ツールです。

AIの役割: ミッションの計画と最適化を支援し、効率的なスケジューリングを行います。

5) Automatic Detection of Impervious Surfaces from Satellite Imagery

概要: 衛星画像から不透水面を自動的に検出します。

AIの役割: U-Netベースのアーキテクチャを使用して、不透水面を高精度で検出します。

6) SIRIUS (Spacecraft Intelligent Reconfiguration and Integrated Uncertainty Sensing)

概要: 宇宙船のリアルタイムの再構成と不確実性の感知を行うシステムです。

AIの役割: 宇宙船の異常を検知し、リアルタイムで対応策を提案します。

7)VISTA (Virtual Information Sharing Tool for Accessibility)

概要: アクセシビリティのための仮想情報共有ツールです。

AIの役割: 情報のアクセスを支援し、利用者に適切な情報を提供します。

これらのシステムはそれぞれ、NASAの異なる研究所やセンターで開発され、宇宙探査やデータ解析、システムの自律化に貢献しています。各システムでのAIの役割は、異常検出やデータ解析、計画最適化など多岐にわたります。 ​

  • JAXAのシステム

JAXAのAIシステムの詳細

1)データによる環境モデル構築技術

目的: 宇宙機の軌道予測精度を向上させる。

詳細: 大気密度の予測に機械学習を用いることで、軌道上の摩擦や重力の影響を正確にモデリングします。これにより、軌道の予測精度が向上し、宇宙機の運用効率が改善されます。

2)故障予測・診断技術

目的: 宇宙機の故障を事前に予測し、迅速に診断する。

詳細: モデルベースのアプローチとデータ駆動技術を組み合わせ、宇宙機の運用データを解析します。これにより、異常を早期に検出し、対策を講じることが可能になります。AIはパターン認識と異常検知アルゴリズムを活用して、故障の兆候を特定します。

3)ターゲット画像認識・識別技術

目的: 宇宙探査や地球観測において目標物を高精度で認識・識別する。

詳細: ディープラーニングを用いた画像解析技術により、衛星画像や探査機から取得した画像データから特定の目標物を識別します。これにより、地球環境の監視や資源探査が効率的に行われます。

4)自律システムの信頼性・安全性技術

目的: AIシステムの信頼性と安全性を確保し、宇宙ミッションの成功率を高める。

詳細: ディープラーニングを含むAIシステムに対して、様々なシナリオでのテストと検証を行います。信頼性評価モデルを構築し、AIの判断が安全かつ確実であることを確認します。特に、宇宙探査における自律ロボットの運用において、この技術が重要です。

これらの技術は、JAXAが宇宙探査や地球観測の分野でリーダーシップを維持するために不可欠です。各システムは、それぞれの目的に応じて設計されており、AI技術を活用することで効率的かつ安全な運用を実現しています。

  • NASAとJAXAのAI活用の違い

1)NASAのAI活用の特徴

・探査機の自律航行とナビゲーション

具体例: オリオン宇宙船の自律航行システム、火星探査機パーサヴィアランスのナビゲーション

特徴: NASAは、深宇宙探査において探査機の自律的なナビゲーションに重点を置いています。AIは障害物回避や最適な経路選定に利用され、探査機が安全かつ効率的に目的地に到達することを支援します。

・データ解析と科学的発見の支援

具体例: 火星探査機のデータ解析、天体観測データの解析

特徴: 大量の観測データをリアルタイムで解析し、科学的な発見を支援します。AIは、複雑なデータセットから有用な情報を抽出し、研究者に提供します。

・ロボティクスと作業自動化

具体例: 国際宇宙ステーション(ISS)のロボティックアーム(カナダアーム2)

特徴: 宇宙ステーションや探査機での作業を自動化するためにロボティクス技術を活用し、AIが精密な操作をサポートします。これにより、人間の介入を最小限に抑え、安全かつ効率的な作業が可能になります。

2)JAXAのAI活用の特徴

・地球観測と環境モニタリング

具体例: だいち2号(ALOS-2)の画像解析、GCOM-C(しずく)の気候変動モニタリング

特徴: JAXAは、地球環境の観測とモニタリングにAIを積極的に活用しています。衛星画像の解析や気候データの処理にAIを用いることで、環境変化を高精度で把握し、迅速な対応を可能にしています。

・探査機の自律制御と安全性

具体例: はやぶさ2の自律着陸システム、SLIM(月着陸探査機)の自律着陸技術

特徴: JAXAは、自律制御技術を強化し、探査機が安全に着陸し、ミッションを成功させるための技術を開発しています。AIは、リアルタイムの地形解析や障害物回避を支援します。

・故障予測と診断

具体例: 宇宙機の故障予測・診断システム

特徴: JAXAは、宇宙機の故障を予測し、診断するためのAI技術を開発しています。モデルベースのアプローチとデータ駆動型技術を組み合わせることで、運用の安全性と効率を向上させています。

3)違いの考察

・目的と応用分野の違い

NASAは、深宇宙探査や火星探査などのミッションに重点を置いており、探査機の自律航行やナビゲーションにAIを多用しています。

JAXAは、地球観測と環境モニタリングに重点を置いており、衛星画像解析や気候データの処理にAIを多く活用しています。

・技術の重点領域

NASAは、ロボティクスと自律システムの安全な運用に焦点を当てており、AI技術を用いて作業の自動化と効率化を図っています。

JAXAは、故障予測と診断、ならびに自律制御技術に注力し、AIを用いて宇宙機の運用安全性を高めています。

・科学的発見のアプローチ

NASAは、観測データからの科学的発見を促進するためにAIを利用し、新しい知見を得るためのデータ解析を強化しています。

JAXAは、環境モニタリングを重視し、AIを活用して地球環境の変化を詳細に監視し、環境保護や災害対応に貢献しています。

・まとめ

NASAとJAXAは、それぞれの強みを活かしてAI技術を宇宙探査と地球観測に応用しており、そのアプローチには特色があります。NASAは深宇宙探査における自律航行やデータ解析に重点を置き、JAXAは地球環境の観測と安全な運用に焦点を当てています。

今後AIが宇宙開発において欠かせないものになっていくでしょう。

<参考文献>

AI Inventory – NASA

人工知能利用基盤技術|第三研究ユニット(旧 情報・計算工学センター) (jaxa.jp)