メタバース×AIが創る未来

メタバースとは

2021年10月、米IT大手の「Facebook」が社名を「Meta」に変更し、メタバースに大規模な投資を行うと発表しました。これを契機として大きな注目を集めたメタバースですが、そもそもメタバースとは一体何なのでしょうか。

メタバースの定義には様々なものがありますが、「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業 報告書」(経済産業省)(2022年1月21日に利用)では、メタバースを、「一つの仮想空間内において、様々な領域内のサービスやコンテンツが生産者から消費者へ提供される」プラットフォームと定義しています。

また、同報告書は、ここにいう仮想空間について、「多人数が参加可能で、参加者がその中で自由に行動できるインターネット上に構築される仮想の三次元空間。ユーザはアバターと呼ばれる分身を操作して空間内を移動し、他の参加者と交流する。ゲーム内空間やバーチャル上でのイベント空間が対象となる。」と定義しています。

既存の仮想空間とメタバースの違いは、1. 仮想空間をプラットフォームとして提供し、②様々な領域のサービスが提供されることにあります。

メタバースの現在

2022年現在、完全なるメタバースはまだ実現していませんが、実はメタバースのようなものは古くから存在していました。映画「マトリックス」や「サマーウォーズ」がその最たる例だと言えるでしょう。

一方、ビジネスの世界でも、さまざまな仮想空間を利用したサービスが登場しています。

米Epic Gamesが提供する「Fortnite」は多人数参加型のバトルロワイヤルゲームであり、ゲーム内においてユーザーは他のユーザーと自由にコミュニケーションをとり、戦闘に参加したり、買い物や服の着せ替えを楽しんだりもできます。

米VR Chatは他人と自由にコミュケーションをとることができる仮想空間を提供しています。この中で、ユーザーは自由にバーチャル空間を作り、ゲームなどのさまざまな活動を行うことができます。時には、3Dモデルの展示・即売会が行われ、大きな注目を集めています。

ブームの火付け役たるMeta(旧Facebook)は、Horizon Workroomsというオンライン会議用のサービスを開発しており、ユーザーはいつでもどこでも仮想空間に集まってコミュニケーションを取ることができます。

国内企業の動きはどうでしょうか。グリーは2021年8月にメタバース事業への参入を発表しました。現在バーチャルライブ配信アプリを提供していますが、今後2〜3年で100億円規模の投資を行い、数億人規模のコミュニティの形成を図るといいます。KDDIは同年9月にリアルとバーチャルを融合した「au版メタバース」の構想を発表しました。また、国土交通省は現実の都市をサイバー空間に再現する3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化事業「Project PLATEAU」に取り組んでいます。

メタバース×AIで出来ること

メタバースはAIと独立した新技術のように語られることが多いですが、実はこの二つを組み合わせることによって私たちはより仮想空間に没入していくことが可能となります。

本物と見分けがつかないリアルなアバター

例えば、敵対的生成ネットワーク(GAN)などの機械学習を活用すれば、デザインスキルのない人でも簡単に自分のアバターを作り、仮想世界にもう一人の自分を生み出すことができるようになります。そうなると、仮想空間にもう一つの世界、すなわち巨大な経済圏が生まれる可能性があります。現にEpic Gamesは「METAHUMAN CREATOR」という誰でも簡単にリアルなアバターを作成できるサービスを提供しています。将来的には、AIが自力でアバターを作成し、運用するようになるかもしれません。

*敵対的生成ネットワーク(GAN)について詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

AIが恋人や親友に

自然言語処理の研究がさらに進めば、まるで本物の人間と喋っているような感覚でAIとの会話を楽しめるようになるでしょう。さらに、GANの技術を応用してAIが人間の動きを学習すれば、アバターが人間のように振る舞うことができるようになり、私たちはAIと人間を区別することができなくなるかもしれません。そうすれば、恋愛対象や親友がAIとなっていく可能性があります。

*自然言語処理について詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

仮想空間における五感の再現

実は今、仮想空間において五感を再現する研究が進んでいます。奈良先端科学技術大学院大学や電気通信大学などによる研究チームは、食品の外観を画像変換し、AR(現実世界に、デジタル情報を重ね合わせて表示する技術)を使用して重畳することで視覚から味覚を錯覚させるGANを用いたリアルタイム味覚操作システムを発表しました。

メタバースの課題

このように無限大の可能性を秘めたメタバースですが、その普及にはいくつかの課題が存在します。

技術とコスト

まず、どのような新技術にも当てはまることですが、登場したての技術はなかなか人々に受け入れてもらえません。現に、メタバースと仮想空間に関する技術の認知度は90%であるにもかかわらず、家庭用VR機器の保有率は6%に留まっています。スマホの保有率69.3%と比べるとその差は歴然です。

その要因の一つとして、デバイスの性能の低さが挙げられます。誰もが気軽に使うには軽量化・小型化が不十分であったり、操作方法がわかりづらかったりします。また、価格の高さも普及率の低さに繋がっていると言えるでしょう。

一方、開発側もコストの問題に直面しています。仮想空間内のコンテンツの製作コストやサーバーの維持コストが大きな負担となっているにもかかわらず、ユーザー獲得のために無償でサービスを提供している事業者も多く存在します。

また、メタバースの更なる発展の為には、デバイスの性能向上のみならず、より大規模な同時接続を可能とするサーバー技術や取引の安全性を担保するブロックチェーン技術の開発も必要不可欠です。

ルール整備

ITサービスは国境を超えて展開されることが多く、メタバースもその例外ではありません。サービス上で国境を超えた紛争が発生した場合、適用法が変わる可能性があります。そのため事業者は、自社が提供するサービスのユーザーとの間で、どの国の法律が適用されるか、十分に留意する必要があります。

また現在、メタバース上のアイテムなどの仮想空間オブジェクトに対して著作物性は認められるという見解が有力ですが、物権性は認められないというのが通説ですし、アバターには自然人としての権利が認められていません。しかし、NFT技術の登場により、個別の仮想オブジェクトに対する識別や、ユーザー間における仮想オブジェクトの譲渡が容易となったため、権利を付与する必要性が増していると言えるでしょう。