AIを駆使したデジタル農業の未来

現在の農業では、GPSによるコンバイン走行の誘導や気象データのモニタリングなどの、いわゆる“精密農業”というアプローチによってコストを削減しながら効率を最大化する動きが図られています。気候変動によって食糧不足が深刻化するなか、人口増加に見合った食糧生産が期待されており、精密農業はその点で注目を集めています。

一方で、精密農業はその用途が限定的であるという問題を抱えているのも事実です。例えば、GPSを駆使して畑全体に農薬を散布することはできても、特定の作物に的を絞って散布することはできません。

アイオワ州立大学の Artificial Intelligence Institute for Resilient Agriculture は、今後3~5年の間にデータサイエンス、機械学習、その他の人工知能技術を駆使して、トウモロコシや大豆の生産者に、作物生産性を高めるための提案を行うことを考えています。

*機械学習について詳しく知りたい方は、↓の参考記事をご参照ください。

同研究所は、ジョンディア社などの業界関係者と、1万人の農家を代表するアイオワ大豆協会やアリゾナ大学などの機関の協力で成り立っており、予測「デジタルツイン」フレームワークの作成に取り掛かっています。これは、1つの植物から農場全体まで、あらゆるものを仮想的にモデル化するために使用するツールです。このようなツールは、畑に撒く最適な窒素の量から、どのような交配種を栽培するかまで、無数のシナリオを迅速かつ容易に検証することができます。

デジタルツインのフレームワークは、仮説を素早く検証し、意思決定がどのように行われるかを見るだけでなく、従来サイロ化されていた2種類のデータを組み合わせることで、農家の専門性を大幅に拡大することができます。気象、土壌構成、植物遺伝学などのデータを継続的に取り込みながら、農家や植物学者などの集合知を活用することができるのです。

また、デジタルツインは1つの研究室内だけでなく複数の研究室や農場でも活用することができます。同研究所の所長であるニラブ・マーチャント氏は、Cyberinfrastructure-AI Institute for Resilient Agriculture というプラットフォームの開発に取り組んでいます。

Sierra(シエラ)の愛称で呼ばれるこのプラットフォームは、デジタルツインの開発に携わるすべての人が、年間ペタバイト単位のデータを迅速かつ容易に共有できるようにすることを目的としています。将来的にSierraは、農家や科学者が独自のモデルを構築するためのデータやツールへのゲートウェイとなる予定です。オープンソースのプラットフォームにしたり、共同研究機関にライセンス供与したりすることも考えられています。技術的な側面だけでなく、これらのAI技術の展開、採用、民主化の側面にも焦点を当てているといいます。