この記事では、最新のOpenAIのツール「Canvas」をご紹介します。CanvasはChatGPTが搭載された最新の文書編集機能です。現在はベータ版として限定的に公開されています。それでは、Canvasの背景や機能について詳しく見ていきましょう。
目次
1.ChatGPTの文書編集機能の進化
ChatGPTの登場からおよそ2年が経ち、日常的な作業や業務の中でChatGPTを活用している人も増えてきたのではないでしょうか。ChatGPTの機能は進化を続けてきており、最近では非常に推論能力の高い「o1-preview」モデルの登場もありました。こうした進化の中で、従来のチャット形式のChatGPTでは、生成された内容の修正や編集作業に手間がかかるという課題を感じていた人も多いのではないでしょうか。そんな課題を解決するのが最新の「Canvas」です。CanvasはChatGPT駆動型の文書作成ツールであり、生成内容を部分的に再生成する機能も搭載されています。Canvasの機能については次章で詳細に解説します。
2.Canvasが提供する主な機能
Canvasで使用できる主な機能を5つご紹介します。モデルの選択からGPT-4o with canvasを選択してプロンプトを入力すると、ChatGPTにより回答が生成されます。Canvasでは回答が生成された状態で、次の5つのショートカット操作をすることができます。
(1) 編集の提案機能
Canvasでは自動的に内容編集を提案してくれる機能があります。内容編集機能では、より自然な表現や具体例の提案なども提供してくれます。Canvasの編集提案機能では不自然な単語や表現のみを代替するのではなく、該当する文章全体を違和感なく書き換えてくれます。
(2) 文章の長さの調節機能
生成する文章の長さを調節したいこともよくあるでしょう。Canvasでは、生成した文章を現状の長さを基準にして調整することもできます。分量を増やしたいときには特に便利なツールとなるでしょう。
(3) 読解力の変更
想定される読み手に対して言葉遣いを変えることも、文書の作成においては重要になります。そんな時に、ひとつひとつの文書を書き直す手間を減らしてくれるのが、読解力の変更機能です。読解力のレベルは、幼稚園児、中学生、高校生、大学生、大学院生から選ぶことができます。
(4) 最終的な洗練を追加する
文章の内容や表現に関する修正が一通り終わったら、最終的な洗練を加えることができます。この過程では、文法やわかりやすさ、一貫性などの最終確認を実行してくれます。最終的な洗練の追加を実行すると、変更箇所の個数を提示してくれます。
(5) 絵文字の追加
遊び心のある機能である、絵文字の追加もあります。この機能を実行すると、文章に合った絵文字を追加してくれます。
これらの機能は文章全体に適用することもできますが、予め適用したい文章の範囲を選択しておくことで、部分的な編集も可能です。あくまでこれらの5つはショートカット機能ですので、これ以外の操作であっても、詳細なプロンプトを入力することで実行することができます。また、編集を実行して上手くいかない場合は、画面内の戻るボタンから前の状態に戻すことができます。
OpenAI Canvasの文書編集におけるショートカット機能
このような文章の生成だけでなく、コーディングにおけるCanvasの利用も効果的です。コーディングにおけるCanvasでは、次のような5つのショートカット操作が用意されています。
(1) コードのレビュー
コードのレビューは、記述されたコードに対してより良いコードを提案してくれる機能です。この機能では、実際に生じているエラーの修正案を提案してくれるだけでなく、実際の環境に展開した際に想定しうるエラーに対しても、エラーハンドリングや本番環境のためのコードの変更を提案してくれます。
(2) ログの追加
コーディングをしているとコードの動作を確認したり、理解を深めたりするために、画面に情報を表示するprint文を追加することがあります。このショートカット機能では、コード内に自動的にログを追加することで、デバッグ作業をより効率的に進めることができます。
(3) コメントの追加
コメント機能ではコードの説明をつけることができます。複雑な関数や重要な処理部分に対して説明を加えることで、コードの目的や動作が明確に示され、人間にとってわかりやすいコードを書くことができます。
(4) バグの修正
バグを修正するショートカットもあるため、問題のあるコードを検出して書き換え、エラーを解決します。さらに潜在的な問題やバグの原因となるコードの部分を特定し、予防的な修正を行います。
(5) 言語の変換
プログラミングのコードをJavaScript、TypeScript、Python、Java、C++、またはPHPに翻訳するショートカット機能もあります。
OpenAI Canvasのコーディングにおけるショートカット機能
3.GPT-4o with CanvasとClaude 3.5 Sonnetの比較
この記事では、今年の9月に発表された最新の量子コンピュータ技術の論文をもとにして、その性能を比較してみます。まずは、GPT-4o with Canvasを使用して論文の概要を編集していきます。
GPT-4o with Canvasによる論文の概要の書き換え例
一方で、Claude 3.5 Sonnetにも同様のプロンプトを入力した結果が次のようになります。
【一般向け(中学生レベル)】
Claude 3.5 Sonnetによる論文の概要の書き換え例(一般向け)
【高校生・一般技術者向け】
Claude 3.5 Sonnetによる論文の概要の書き換え例(一般技術者向け)
【専門家向け】
Claude 3.5 Sonnetによる論文の概要の書き換え例(専門家向け)
両者ともに、様々な対象に向けた内容に書き換えが行われたという点では共通しています。Claude 3.5 SonnetとGPT-4o with Canvasのそれぞれの編集機能を比較していきましょう。
〈初学者・一般の人向けの書き換え〉
- GPT-4o with Canvasでは、難解な専門用語の使用が避けられており、その研究がどのような分野で利用されているのか、どのような革新性があるのかがわかるように要約されています。
- Claude 3.5 Sonnetでは、口語的な口調での要約となっている点が特徴的です。例えを書いたり口語的に書いたりすることで、読者に語りかけるようなスタイルとなっており、初心者でも非常にわかりやすくなっています。
〈中級者・大学生向けの書き換え〉
- GPT-4o with Canvasでは、中級者向けの書き換えのため、専門用語が積極的に使用されています。初学者向けの書き換えからは難易度が大幅に向上しており、専門用語の理解が前提とされています。
- Claude 3.5 Sonnetでは、中級者向けの書き換えであっても専門用語を簡潔に解説するなどの工夫が見られ、量子コンピュータを専門としていない人でも無理なく読める難易度で書かれている印象です。
〈上級者・専門家向けの書き換え〉
- GPT-4o with Canvasでは、原文の難易度が非常に専門的な内容であるため、専門家向けの書き換えは必然的に単なる英語の翻訳に近いものとなっています。
- Claude 3.5 Sonnetでは、上級者向けの書き換えでも単なる翻訳に留まることはなく、重要なポイントを箇条書きで抽出しており、読みやすさの向上を実現しています。
これらの比較により、一概にどちらが優れていると結論付けることはできないものの、各対象に合わせて工夫を施しているClaude 3.5 Sonnetの方が優れているという印象です。特に専門家向けの書き換えでは、その工夫に顕著な違いが見られました。難解なものを難解な言葉で伝えるだけでは、人間の手助けとはなりません。しかし、学術的文章のニュアンスを残したまま、難易度の変更をするといった際には、GPT-4o with Canvasの利用価値は高まるかもしれません。
4.まとめ
本記事では、OpenAIの最新機能である「Canvas」についてご紹介しました。Canvasの特徴は以下のようにまとめられます。
- 従来のChatGPTにはなかった編集機能が備わっている
- 編集機能を使用して部分的な再生成や質問が可能
- ショートカット機能で分量や難易度の調整が簡単に行える。
また。検証ではClaude 3.5 SonnetとGPT-4o with Canvasで出力スタイルに違いがあることもわかりました。このようなAIツールごとの違いを理解し、生成AIを活用した編集機能を上手く使いこなせば、文書作成の効率化や、品質の大幅な向上に役立つかもしれません。
【参考文献】
- Introducing canvas, a new way to write and code with ChatGPT. | OpenAI
- “High-performance fault-tolerant quantum computing with many-hypercube codes,” Science Advances, September 4, 2024, https://doi.org/10.1126/sciadv.adp6388.