はじめに
世界的にAIの開発、利用が一層進み、その覇権争いが激化しています。 AIの開発・活用で先行する国は、技術の未来を切り開き、経済競争力を大きく向上させますが、後発の国は主要産業で競争力を失うリスクがあります。そのため、30カ国以上がAI国家戦略を策定し、長期的な見通しを立てています。このような状況下でAI競争に勝利するのはいったいどの国になるのでしょうか。この記事では、米国のシンクタンクCenter for Data Innovationが発表した新しいレポートに基づいて解説していきます。
調査
Center for Data Innovationが発表したレポートは、中国、欧州連合、アメリカが近年AIで相対的に進歩したことを検証したうえで、2019年での中国、欧州連合、アメリカのAI能力を、人材、研究、開発、ハードウェア、採用、データの6つのカテゴリーにわたる30の指標を用いて分析しました。
これら6つのカテゴリーには、それぞれ選ばれた理由があります。まず、AI開発等において必要不可欠な人材がいる国は、AIシステムをよりよく開発・導入し、企業を誘致し、大学においては次世代のAI研究者を指導する有能な「AI教授」を十分に確保することができるようになります。第二に、研究により、国家はAIイノベーションを拡大し、国内の優先事項や産業に関連する問題を解決することができるようになります。第三に、AI開発に携わる企業やスタートアップの数は、関連する投資資金と相まって、イノベーションを続ける強力なAI産業の基礎を築くのに寄与します。第四に、AI関連企業の採用人数はその国のAI事業の規模に関連し、これからどの程度の発展が見込まれているかの指標となります。第五に、より多くの、より質の高いデータが、AIアプリケーションで機械学習を使用する新たな機会を創出します。最後に、ハードウェアをリードすることで、他国への依存度を減らすことができます。これは、現在の中国とアメリカの貿易紛争を考えると、重要な役割を果たす可能性があります。
人材
高度AI人材はどの国で研究活動をしているのでしょうか。シカゴ市のポールソン研究所のシンクタンク「マクロポロ」が「The Global AI Talent Tracker」という調査では、機械学習分野での国際的なカンファレンス「NeurIPS」に提出された論文の著者を追跡調査し、AI研究者の上位20%にあたる“高度AI人材”の活動地を調べました。その結果、高度AI人材が研究を行っていた国は、米国が59%と圧倒的に多く、中国11%、欧州10%と続いていました。
研究
各国のAI研究の発展の度合いを数値化して比較してみると、AI論文数は2018年の時点で中国、EU、アメリカの順に24,929、20,418、16,233と中国がリードしていますが、文献引用やダウンロードはアメリカが最も多くなされていました。研究開発費に関しても、2019年のデータでアメリカ、中国、EUの順に 124,480百万ドル 23,659百万ドル 14,569百万ドル とアメリカがリードしています。
開発
VC(ベンチャーキャピタル)+PE(プライベートエクイティファンド)での資金調達やAIスタートアップ企業の数、国際特許の数などにおいてはアメリカがそれぞれの値で他国に二倍ほどの差をつけてリードしています。
ハードウェア
半導体の売上高、研究開発費ではアメリカ、EU、中国の順に多くなっており、スーパーコンピューターの数こそ中国がリードするものの、性能ではアメリカが他二か国をリードしています。その結果総合値ではアメリカ、中国、EUの順に高くなっています。
採用
M&Aの際には弁護士や法務担当者による法務DDが行われますが、膨大なチェック項目があり、多大なコストが生じます。そこでAIとRPAを活用して法務DDの効率化を図ろうと開発されているのが「LIRIS」というサービスです。COC条項(資本拘束条項)などの重要条項を自動検出するなど法務DD業務の効率化をサポートします。現在、このサービスは開発途中であります。
データ
固定ブロードバンド契約数、電子カルテ、地図データ、では中国、EU、アメリカと人口に応じた順位となっていますが、 生産性データやではアメリカが、遺伝子データや制度面ではEUがリードしています。しかし総合的にみると人口で他を圧倒する中国が優位を保っています。
調査結果
アメリカは4つのカテゴリー(人材、研究、開発、ハードウェア)でリードし、中国は2つのカテゴリー(採用、データ)でリードしていることがわかりました。100点満点中、米国が44.2点でトップ、次いで中国が32.3点、欧州連合が23.5点でした。
アメリカは依然として全体的にかなりのリードを保っていますが、中国はいくつかの重要な分野でその差を縮め続けていることが分かりました。また、EUは引き続き後れをとっています。EUとあ、エリカの双方で大幅な政策変更がない限り、特にEUは規制制度をよりイノベーションに適したものに変更し、米国はより積極的な国家AI戦略を策定し資金提供しない限り、EUはアメリカと中国の両方に後れを取り、アメリカはいずれ中国との差を縮められてしまう可能性が高いと思われます。
まとめ
AIの競争が激化する中、現在はアメリカがリードしつつも中国がその後を追いEUが少し遅れを取っているという状況です。国際競争はどういう動きがみせるのか、また日本はこの三者に食い込んでいけるのか、今後の動向に注視していくことが求められます。