これまでベテラン従業員のもつ知識やノウハウは暗黙知(営業手法、製造技術など)とよばれ、属人的な要素が強かった。それをマニュアル化しても、参照する際に大いに手間が発生していた。しかし、この暗黙知を形式知へと変え、組織全体で効率よく利用しようとするのがナレッジ・マネジメントである。近年では、それにAIを活用することにより、さらなる効率化が図られている。今回はそんな様々な暗黙知のナレッジ化について紹介していきたいと思う。
ナレッジ×製造業
FRONTEO社がAGC社と共同開発したAIナレッジシェアシステム「匠KIBIT(キビット)」は製造業の技能伝承支援を行うもので、熟練技術者が長年の経験から生み出したノウハウを蓄積することにより、作業や業務についての質問にAIが自動で答えてくれる。その回答速度は最大1日に40件と人間を遥かに超える。さらに、データベースに回答が存在しない質問が寄せられた際には、AIが自動で熟練技術者の中から適切な回答者を推定してくれる。このサービスは熟練技術者の高齢化や継承者不足、拠点の分散化など技能伝承の課題の解決に大いに貢献する。
また、米スタンフォード大学で1946年に創設された独立研究機関のSRIインターナショナルは日本の製造業向けに、言語化が容易な明示的知識や言語化が難しくコツを要する暗黙的知識を複数のセンサーやAI、自然言語分析エンジンで収集、分析、整理して、単一のナレッジベースを構築するというソリューションを提案した。さらに、ナレッジベースに蓄積した知識を伝達する際には、ARを用いて物理的な対象物の上にバーチャル情報を重ね合わせるという。
ナレッジ×営業
ある会社では営業ノウハウが社内に点在しており、マニュアルも上手く活用できていなかった。そこで、ソフトバンク社の提供する、米IBM社のWatsonを活用したAIチャットボット「EXA AI SmartQA」を導入し、応酬話法や商材知識、不動産や法律関係の学習データなどの情報を集約した。これにより、営業担当者の質問をAIが解決してくれるようになり、営業成績の大幅な向上に貢献した。
また、別の会社では、スキルやノウハウの属人化が深刻化し、営業成績の個人間での差が大きく、組織全体でみるパフォーマンスが向上していないという状況にあった。そこで、パクテラ・コンサルティング・ジャパン社の「Pactera X(パクテラ クロス)」というAIソリューションを活用し、音声データ、トークスクリプトの解析を行い、ナレッジベースを構築し、営業成績の改善、効率的な人材育成に成功した。
ナレッジ×その他
コロナ禍でのリモートワーク増加に伴う社員同士のコミュニケーション不足により、ナレッジ共有の需要は高まっている。株式会社ビヘイビアが提供する「Nerve」を活用すれば、各個人の書いたメモをAIが自動で分類してくれるため、組織のナレッジの蓄積を加速させることができる。分類の手間を省くことにより、従業員が気軽にノートに記入できるようにしたことに大きな特徴がある。
また、クレーム対応においては、過去のクレームが定型化されていない場合が多く、初期対応に遅れが生じることがある。しかし、図研プリサイト社のクレーム発生時の初動対応をAIで支援する、電子部品メーカーの品質保証部門向けソリューション「Qualityforce(クオリティーフォース)」を活用すれば、クレームをAIが自動で分類し、担当者に類似した過去のクレーム対応をリコメンドしてくれる。これにより、製品への理解が乏しい者でも迅速な対応が可能となる。
暗黙知を形式知化しないナレッジ
図研プリサイト社のナレッジ共有ソリューション「Knowledge Explorer(ナレッジエクスプローラー)」は、単一のナレッジベースを構築することなく、Word、PDF、HTMLなどの複数のファイルを参照し、必要な情報を提供することが可能である。
まとめ
今後、日本は人口減少に伴い労働者不足が顕著になることが予測されている。そうした時に、現状の技能伝承システムのままでは多くの貴重なノウハウが失われる可能性が高い。ゆえに上述のようなナレッジ・マネジメントの重要性はますます高まるだろう。
参考資料
・AIで製造業での技能伝承を支援する、ナレッジシェアシステムの販売開始:製造ITニュース – MONOist (atmarkit.co.jp)
・株式会社桧家ホールディングス 様 | IBM Watson導入事例 | ソフトバンク (softbank.jp)
・暗黙知もセンサーや言語解析で総合的に把握する、技術承継用AIソリューション:人工知能ニュース – MONOist (atmarkit.co.jp)